続・祈りの巫女85
 昼食のあともあたしは部屋にこもって、3代目祈りの巫女の物語を読んでいた。やっと少しだけ頭が落ち着いてきて、午前中はぜんぜん入ってこなかった物語の方も、ようやく少しずつ進めることができるようになっていた。リョウはまだ頭の中に残っていたけれど、それだけで頭の中がいっぱいになるほどじゃなかったみたい。そうしてしばらく読書を続けていた時だった。突然、カーヤが部屋のドアをノックしたんだ。
「ユーナ、ユーナ、ちょっと出てきて。早く!」
 あたしはすぐに気がついて、部屋のドアを開けて言った。
「どうしたの? 何かあったの?」
「いま外でタキが教えてくれたのよ。リョウがあとからくるんだって。もうそこまできてるの。せっかくだから迎えてあげましょうよ」
 あたしはカーヤに腕を引かれて、あっという間に宿舎の外に連れ出されていた。あたしは突然のことでまだリョウにかける言葉の1つも考えてなかったから、自分でも訳が判らないくらい戸惑ってしまっていたの。心臓がドキドキして、すごく緊張してるんだってことが自分でも判った。これからリョウに会うんだ。リョウが、9日ぶりにあの道を登って、あたしに会いにきてくれるんだ。
 夏の初めの日差しは強くて、少しの風に揺られる森の新緑がきらきらと色を変えている。その森の間の道からリョウがやってくる。あたしはずっとその道を見つめていた。最初に見えたのはランドの横顔。そのうしろからゆっくり歩いてきたリョウは、日差しの眩しさにほんの少し目を細めて、やがてあたしを見つけて微笑んだんだ。
「ユーナ!」
 リョウの表情がみるみる変っていくのを、あたしははっきりと見ることができた。微笑んで、あたしの名前を呼んで、そのあとリョウは満面の笑みを浮かべた。なんのかげりもない、どこにも力が入っていない、すごく自然な笑顔。その表情は自信に満ちていて、1つのことをやり遂げた喜びに輝いていたんだ。
 あたしが知っていたリョウとはまるで別人みたいだった。それ以上、あたしはリョウを見ていることができなかった。知らず知らずのうちにあたしはカーヤの手を振り払って、宿舎に逃げ帰ってしまっていた。