続・祈りの巫女84
 タキはあたしにリョウのことを教えてくれなかったけど、それは別にあたしに意地悪をしていた訳じゃない。あたしはタキにリョウの相談なんかしなかったんだもの。でもなんだか悔しくて、タキと一緒に行くことは断った。一緒に行けばリョウと会えることは判ってたのに。
 部屋に戻って、新しく借りてきた物語を読み始めたけど、内容がぜんぜん頭に入ってこなかった。冒頭の部分を何度も読み返して、それなのにけっきょく1ページも進まなかったから、途中で諦めて本を閉じてしまったの。心の中がもやもやしてる。今のあたしにはリョウのことと自分のことだけで、それ以外のことを考える隙間がなかったんだ。
 リョウは今なにしてるんだろう。まだ寝てる? それとも、タキが言ってた関所に行って、神殿の手続きをしてるのかな。
 帰ってきたのに、リョウは真っ先にあたしに会いにきてくれないの? あたしに会うことよりも神殿の手続きの方が大切なの?
  ―― なんだか判った気がする。あたし、リョウに会いに来て欲しいんだ。あたしの方から会いに行くんじゃなくて、リョウの方から来て欲しいんだ。だって、あたしはランドやタキにリョウのことを聞いたけど、リョウ本人から聞いた訳じゃないんだもん。リョウが突然いなくなってしまった理由も、リョウが帰ってきたってことも、リョウの口から直接聞きたいんだ。
 なんかあたし、だだっ子みたい。リョウは仕事をしてるのに、そばにいてくれないことを拗ねてるの。子供みたいに聞き分けのないことを思ってるの。こんなんじゃ、リョウがあたしを子供の頃と同じように見ていたとしてもあたりまえだよ。
 リョウを好きな自分が悔しい。リョウがあたしを子供のように見ているのが、すごく悔しいよ。
 今、リョウが会いに来てくれたら、あたしはいったいどんな顔でリョウを迎えるんだろう。
「ユーナ、お昼ご飯ができたわよ」
 カーヤに呼ばれて、あたしは自分がものすごく長い時間ずっと考え込んでいたんだってことに気がついた。あたし、午前中ほとんど何もしないで、ずっとリョウのことを考えてすごしちゃったんだ。
 食事の間、カーヤは必要なことを話すだけで、あたしに何も訊ねたりはしなかった。あたしはまだ何も話すことができなかったから、そんなカーヤの心遣いをとてもありがたく感じていた。