続・祈りの巫女82
 あたしが動こうとしなかったから、けっきょくランドは少し怒った表情のまま帰っていった。そんなランドにお礼を言って送り出したあと、カーヤが食卓に朝食を運んできてくれて、あたしもテーブルにつく。自分がどうしてリョウに会いに行かなかったのか判らなかった。あたしでも判らないんだもん。カーヤもたぶん理解できなくて、テーブルの向かい側からあたしの顔を覗き込んでいた。
「どうしたのユーナ。どこか身体の具合でも悪いの?」
 あたしは下を向いたまま首を振った。どうしてなんだろう。あたし、リョウに会ってしまうのが怖い。
「……ランドに悪いことをしちゃった。わざわざ知らせにきてくれたのに」
「そうね。でもあの人、そういうこと気にするような人に見えなかったわ。ユーナのことを気遣っているっていうより、たぶん自分がそうしたいからきたのね。きっと感動の再会を演出したかったのよ」
 カーヤ、あたしが気にしないようにそんなことを言ってくれる。でもきっと本当にそう思ったんだろうな。ランドって昔から、あたしやリョウにおせっかいやいて、それをすごく楽しんでいるようなところがあったから。
「それにしてもユーナ、本当によかったわね。リョウが無事に帰ってきて」
 あたし、カーヤのその声にほんの少しだけ悲しみを感じて、慌てて顔を上げた。カーヤは微笑んで、心からリョウの無事を喜んでいる表情であたしを見つめていた。その表情と声のギャップにすごく違和感を感じたの。カーヤ、どうして? あなたはリョウが帰ってきたことを悲しんでいるの?
「これもユーナが毎日祈りつづけていたからね。ユーナの祈りが神様に届いたんだわ。おめでとう、ユーナ」
 そうして顔を上げたままカーヤの声を聞いていたら、さっき声に悲しみを感じたことも嘘みたいに思えた。いったいどうしたんだろうあたし。なんだかすごく過敏になってるような気がする。
「ありがとう。……カーヤ、あたし、なんだか変なの。リョウが帰ってきたこと、すごく嬉しいのよ。でも会いに行きたくないの。……リョウのことが判らなくなっちゃった。あたし、自分のことも判らなくなっちゃったの」
 カーヤは少し首をかしげるようにして、あたしを見つめていた。