続・祈りの巫女80
 2代目祈りの巫女の物語を読み終わったから、今度は3代目の祈りの巫女の物語を読むことになっていた。あたしは12代目だから、その前の11人すべての物語を、あたしは読まなければいけないの。祈りの巫女になってからの最初の1年は先輩の巫女たちにいろいろ教えてもらっていたけれど、今は自分で勉強の予定を立てて進めていかなければならないんだ。書庫の神官に本を借りたり、調べ物を手伝ってもらったり、何もかも自分で計画を立てないといけないんだ。
 昨日は新しい本を借りてこなかったから、朝食前のひととき、あたしはお部屋の拭き掃除をしていた。まだ神官は書庫にいないはずだもの。そんな時だった。突然前触れもなく、玄関のドアを叩くノックの音がしたのは。
「はーい、ちょっとだけ待ってて。今手が離せないの」
 カーヤがそう返事をするのが聞こえたから、たぶん料理の途中なんだってことに気付いて、あたしが部屋から出て玄関のドアを開けた。外にいた人の顔を見て驚いた。だって、ランドは今まで1度もあたしの宿舎にきてくれたことなんかなかったから。
「喜べユーナ、リョウが帰ってきた。オスの北カザム3頭仕留めてだ。大猟だぞ」
 あたし、一瞬ランドの言うことが理解できなかったよ。リョウが帰ってきたの? オスの北カザム3頭……?
「……帰ってきた? ほんとう……?」
「ああ、本当だ。おまえをかつぐためだけにオレがこんなところまでくる訳ないだろ? 昨日遅く帰ってきて、どうやら山を上がってくるだけの体力が残ってなかったみたいだな、そのまま実家に泊まった。今朝出掛けに聞いて真っ先に知らせに来てやったんだ。感謝しろよ」
 そう、たたみかけるようにランドに言われて、あたしはなんだか呆然と聞き流すことしかできなかった。そんなあたしの様子にイライラしたんだろう。ランドはちょっと怒ったような表情になって言った。
「ちゃんと反応しろよ! リョウが戻ったんだぞ。しかも初めてとは思えない成果だ。そりゃ、この時期オスのほうが狩りやすいのは間違いないし、8日もかけりゃオレだって3頭くらいは狩れる。だけどな、そういうことじゃねえだろ、おまえとリョウにとっては」
 あたしは、まだ何も考えることができなくて、ランドのイライラした声を聞いているだけだった。