続・祈りの巫女78
 あたしがこのところ毎日書庫に通っていたのは、もちろんセーラの日記を読むためだったけど、もう1つの理由はリョウがそばにいない不安を紛らわせることだった。セーラの日記を読んで、セーラのことだけを考えていたら、その間だけでもリョウのことを忘れられると思ったから。でも、毎日書庫に通って、カーヤと夕食を取って、夜神殿でリョウの無事を祈るのを忘れたことはなかった。リョウがいなくなってからもう8日も経ってるのに、あたしはリョウがいないことに慣れることができなかった。
 リョウ、リョウはずるいよ。毎日きてくれてたら、あたしだってリョウが毎日くることに慣れちゃうよ。リョウがいなくなってあたしはこんなに寂しいのに、リョウは平気なの? 8日も帰ってこなくて、あたしの顔を見なくて、それでもリョウは平気でいられるの?
 一緒にいる時も、離れてからも、あたしはどんどんリョウのことを好きになってる。それなのに、リョウの中ではあたしはずっと小さな女の子のままで、あたしが誰と結婚してもぜんぜん気にしないでいられる。平気で遠くの山に出かけられる。あたしに何も言わないで出かけて、あたしが心配しないと思ったの? リョウはあたしのことを心配してくれなかったの? リョウがいなくなっても、あたしがずっと平気でいられるって、本当にそう思っていたの?
 あたしはそんなに強い女の子じゃないよ。リョウがそばにいなかったら、寂しくて死んじゃうかもしれないよ。リョウは、あたしが死んでも平気なの? アサとセーラが死んで独り残されたジムのように、いつかは別の女の子と結婚して幸せになるの……?
「ユーナ、ユーナ。お願いよ。もう少しだけ食べて」
 顔を上げると、カーヤが心配そうに覗き込んでいた。テーブルの上のスープはすっかり冷えてしまっていていた。カーヤを心配させたくないから、あたしはスープをすくって飲もうとするのだけど、あたしの喉は物を飲み込むことを忘れてしまったみたい。お腹だってすいてるはずなのにぜんぜん判らない。ちゃんと食べなかったら、せっかくあたしのために料理されてくれた野菜たちに申し訳ないよ。
「……ねえ、カーヤ。子供の頃って、泣いていると喉の奥が痛くなって、息が苦しくて、一生懸命息を吸ったり吐いたりしなかった? どうしてこんなに苦しいのか判らなくて、どうやったら泣き止むことができるんだろう、って」
「そうね、あたしもそうだったわ。今はそんな風に泣くことなんてないけど」
「あたし、今泣いてないのに、喉だけが苦しいの。だから泣き止むこともできないんだ」