続・祈りの巫女79
 書庫から帰ってきて、カーヤの夕食を食べようとすると、あたしはいつも苦しくなる。夕方はいつもリョウが来てくれてた時間だからかな。リョウがいないことを思い出してしまうから。
「リョウが行ってから何日くらい経ったのかしら」
「今日で8日よ。腕のいい狩人ならもう帰ってる頃なんだって。でもリョウは初めてだからたぶん10日かかるってランドは言ってた。狩りが成功しなくても、それ以上は村を空けない決まりなんだって」
「それならあと2日じゃない。あと2日でリョウは帰ってくるのよ。ユーナがそんな顔をしてたらリョウだって心配するわ」
「帰ってこないかもしれないわ。ランドはリョウが狩りに行ったんだって言ってたけど、本当は村を出て行ったのかもしれないもの」
「そんなはずないわ。ユーナがリョウを信じなかったら、リョウにフラレちゃったあたしはどうすればいいの?」
 そうだ。カーヤだってリョウのことを心配してないはずないんだ。それなのにあたしはいつも夕方になるとカーヤに心配をかけてるの。そのたびにカーヤはあたしを慰めようとしてくれて、カーヤだってうんざりしてると思うのに。それなのにいつもカーヤは慰めてくれる。あたしがちゃんと食べられるように、いつもおいしい夕食を作ってくれるんだ。
 この日、あたしはずいぶん時間をかけたけど、なんとかぜんぶ食べ終えることができた。食後は準備をして神殿に祈りに行った。村がいつまでも平和であること。弟のオミが幸せになること。そして、リョウが無事でいること。神殿にはあまり長い時間は留まらないことにしていた。なぜなら、禁を破って自分の幸せを祈りそうになってしまうから。
 どうしてあたしは祈りの巫女なんだろう。もしもあたしが祈りの巫女じゃなかったら、ただのユーナだったら、祈りの巫女にお願いできるのに。どうかあたしを幸せにしてください、リョウの心をください、って。
 でも、セーラはとうとう自分の幸せは祈らなかったんだ。母さまだって自分の幸せを祈って欲しいとは言わなかった。そうだ、カーヤも、1度だってあたしに願い事を言ったことがなかったんだ。
 カーヤに幸せになって欲しい。あたしは、うしろでずっと見守ってくれているカーヤに気づかれないように、いつもの祈りにカーヤの幸せを付け加えた。