続・祈りの巫女77
「タキの言うように、普通は人は1人の人間に恋をするものだと思うわ。でも、セーラは2人に恋をしたのよ。欲張りだったのかな。セーラは、どちらか1人の心だけじゃなくて、2人の心が欲しかったのよ」
 あたしも、今までのタキの反応を見ていたら、なんとなく判ったの。どうしてこの物語を書いた人がそれに気づかなかったのか。これを書いた人も、ずっと書き直してきたたくさんの神官たちも、きっと不思議に思いながらも2人に恋をするのはおかしいから、セーラがジムだけに恋をしていたことにしてしまったんだ。
「それは、新しい解釈だね。でもオレはあんまり信じたくないよ」
「どうして?」
「どうしてかな。例えばオレがジムで、セーラが自分に一生懸命恋をしてくれているときに、同時にアサの方をも好きだったなんて思いたくない。自分を好きな女の子にはやっぱり自分だけを好きでいて欲しいよ。そう、信じていたいよ」
 そう、か。このセーラの物語、あたしはセーラになって読んでしまうけど、タキはジムやアサになって読むんだ。タキの言うとおりかもしれない。もしもリョウがあたしを好きだと言ってくれたとして、でもその時リョウがカーヤのことも同じくらい好きなんだとは思いたくないもの。
 ジムは、たぶんセーラのそういう気持ちをぜんぶ知っていたんだ。だからセーラを愛していたのに受け入れることができなかった。アサ、あなたもセーラが自分を愛していることを知っていたの? それとも、セーラが自分を愛していることを知らなかったから、まるで自殺するようにセーラの前からいなくなることで、幸せにしてあげようとしたの?
 その答えは、今のあたしにはもう判らない。アサは神官だから日記をつけていないし、ジムはそもそも字を書けなかった。……ううん、違うよ、あたしは幸運なんだ。物語を読むことができて、タキの親切でこうしてセーラの日記も読むことができたんだもん。物語では判らなかった本当のセーラに触れることができたんだもん。あたしはタキに感謝しなくちゃいけないんだ。
「タキ、ありがと、セーラの日記を読ませてくれて。物語だけを読んだときより、あたしずっとセーラが判った気がするわ」
 あたしがそう言うと、タキは少し照れたような微笑を返してくれた。