続・祈りの巫女76
「ジムもセーラとは幼馴染だったのよ。この3人はみんな幼馴染で、セーラはずっと一緒に過ごしたジムとアサに恋をしたのよ。それはぜんぜんおかしなことじゃないわ」
 幼馴染に恋をすることは、ぜんぜんおかしなことじゃない。だって、あたしはリョウに恋をしているもの。もしもシュウが生きていたら、あたしはシュウにも恋をしたかもしれない。
「おかしいよ、祈りの巫女。セーラが恋をしていたのはジムなんだ。それが本当なのに、どうしてアサにも恋をできるんだ? だって、2人の人間に同時に恋をするなんて、そんなことあるはずがないじゃないか」
 タキは少しむきになってそう言って、あたしを驚かせた。そうか、タキはセーラが同時に2人に恋をしていたことに納得ができなかったんだ。そう、確かに普通は人は1人の人間に恋をするものだけど、でも、ジムへの恋とアサへの恋、いったいどちらが偽物だったというの? 日記を読んだら判るよ。この恋はどちらも本物で、セーラはジムの心もアサの心も、両方欲しいと思ってたんだ。
「タキは、セーラが2人の人間に恋をしないと思うの?」
「そう思うよ。だって普通、恋は1人の人間にするものだから」
「だったらどうしてセーラはアサが死んだ時にあんなに悲しんだの? アサが怪物退治に行く時にあんなに必死になって止めたの?」
「それは、アサが大切な幼馴染だったからだろ? 誰だって自分の近くにいる人に死んで欲しくはないよ」
「それなら……もしもセーラがジムを好きじゃなかったと思ってこの時の日記を読んだらどう? それでもタキはセーラがアサを好きじゃなかったと思える?」
 タキはしばらく沈黙したあと、日記のあたしが言った部分を読み始めた。タキは何回か繰り返し読んでいたから、あたしは辛抱強く、タキの反応を待っていた。
 やがて、タキが顔を上げたとき、その表情は少し困惑しているように見えた。
「……祈りの巫女は、セーラがジムとアサ、2人を同じくらい愛していたと思うんだ」
 どうやらタキも、あたしが言っていることに耳を傾ける気になってくれたみたいだった。