続・祈りの巫女74
 でもよく考えてみれば、神官のアサは今まで勉強ばかりしていて、身体を動かすことには不慣れだったから、怪物退治にこれほど向いていない人もいなかったかもしれない。命の巫女にはもう1人神官が同行したのだけれど、その人が命の巫女の騎士だったことが今は判っている。でも、当時は一部の人以外誰も知らないことで、アサがセーラの騎士だってことも知られていないんだ。セーラはたぶん純粋にアサを心配していたんだろう。そして、アサがセーラのために怪物退治をしようとしたことは、疑いの余地がなかった。
 その日から、セーラの日記の中にはほとんどアサしか登場しなくなってる。アサが、小さな頃からどんなにセーラに優しくて、どれだけアサに慰められたか。自分を好きでいてくれてどれだけ嬉しかったか。だからアサがセーラの言うことを聞かなかったのがどれほど悔しかったのか。このときのセーラには村の平和なんてどうでもよかった。ただ、アサが戻ってきてくれさえしたら ――
 この日記を読めば誰にだって判ると思う。セーラはアサのことが好きだったんだ、って。物語の中でまるで愛する人が死んだ時のように悲しんだのもあたりまえなんだ。だって、セーラはアサを愛していたんだもん。日記にアサの記述が多かったのも、セーラがアサと過ごす時間をすごく楽しんでいたから。だったら、ジムへの気持ちが嘘だったの? ……ううん、ジムに恋をしていたのも、セーラには真実だったんだ。
 アサが死んだことを神殿のセーラの元へ知らせにきたのはジムだった。ジムも親友の死にショックを受けていたとセーラは日記に書いている。このときのジムは優しかった。今まで、まるでセーラに優しくするのは自分の役目じゃないとでもいうように、セーラをそっけなくあしらっていたジムだったのに。セーラがアサを好きだって、ジムはちゃんと知っていたんだと思う。だからこのとき「オレにはアサの代わりはできないと思うけど」と言いながら、セーラを抱きしめたんだ。
 この日の日記にセーラは「私はアサを失ったけど、ジムは失いたくない」と書いている。セーラはすごく日記を書くのが下手で、自分の気持ちをストレートに日記に表わすことも、もしかしたら態度に表わすことも苦手だったのかもしれないけれど、それでもこの日記から読み取れたことが1つあった。
 セーラは、アサとジム、2人の人を愛していた、っていうこと。
 そして、たぶんアサとジムの2人も、心からセーラを愛していたんだ。