続・祈りの巫女72
 あたしはこの日の日記を何度も繰り返して読んでいた。セーラがジムに告白して、でもジムは「オレとおまえじゃ合わない。おまえにはアサの方が似合ってる」と言って断った。ジムはアサの親友で、アサがセーラに恋をしていることを知っていたから、アサの気持ちを考えてセーラの告白を断ったのかもしれない。
 あたし、このときの3人を自分の立場に置き換えようとした。あたしはリョウのことが好きで、親友のカーヤもリョウのことが好き。だけどあたし、カーヤのためにリョウを諦めたりできないよ。リョウに「あなたにはカーヤのほうが似合ってる」なんて ――
  ―― あたし、言ったじゃない! リョウに「どうしてカーヤじゃダメなの!」って!
 あの時のあたしにはカーヤが泣いているのがつらくて、誰よりもカーヤが大切だったから、あたしはリョウにそう言ったんだ。あの一瞬、あたしはリョウよりも自分よりも、カーヤをいちばん大切に思ったんだ。ジムが本当に心からセーラを好きだったとしたって、アサにセーラを譲る気持ちにならなかったとは言えないんじゃない? その時、本当に自分よりもアサの方が大切だって、そういう気持ちにならなかったとは言えないよ。
 物語の中では、アサがセーラに恋して、セーラがジムに恋する。気持ちはそれだけしか書いてなかったけど、あたしが考えたよりもずっと、人の気持ちは複雑なのかもしれない。表面に現われたのはジムがセーラの告白を断ったという事実だけだったけど、その裏にあるのはもっと複雑な人の気持ちなんだ。
 セーラはずっとジムに恋をしている。一途に恋をして、ジムのためだけに尽くしている。だけど、セーラの気持ちは本当はそれだけじゃないのかもしれない。表面に見えないところで、セーラの心は揺れ動いているのかもしれない。
 あたしは更に日記を読み進めていった。アサは毎日のように口実を見つけてセーラに会いにきて、優しい言葉をかけていく。そういえば、こういうところリョウに似ているわ。リョウはアサのように、あたしを好きだから毎日きてくれてたのかな。ランドが言ってたみたいに毎日あたしを見張りにきてたのかな。それとも、あたしには判らない理由があるのかな。あたしが小さなリョウを傷つけた事実は変わらない。もしもリョウが村を出て行ったのでなかったら、あたしはリョウに訊きたいことがたくさんあるよ。
 リョウがいなくなって5日目のこの日、独りきりの書庫で、あたしは誰も知られず静かに涙を流していた。