続・祈りの巫女71
 昼間は神殿の書庫でセーラの日記を読んで、夕ご飯のあとはリョウのために祈りを捧げる、そんな生活が続いていた。タキは1日の最初に日記を棚から出してくれて、それからは隣の部屋で自分の勉強や仕事をしていた。ときどき書庫には他の神官が出入りすることがあったけど、それだけで、あたし以外は誰もいなかったから、あたりは静かでずっと集中して日記を読むことができたんだ。もしかしたら、隣の部屋にいる神官たちも、あたしの邪魔をしないようにできるだけ静かにしていてくれたのかもしれない。
 15歳頃のセーラの日記には、頻繁にアサが登場するようになっていた。アサは毎朝のようにセーラの宿舎にやってきて、早起きして森から摘んできた季節の花や、その年いちばん早い季節の果物や野菜なんかを置いていった。客観的に日記を読んでいたあたしには、アサが何か口実を作ってセーラと話をしにきていることが、すごくよく判ってしまった。セーラにもそれは判ってたみたい。だって、おいしそうな野菜を持ってきたアサに「これ、ジムのお弁当にぴったり」なんて思いっきり言ってたりするんだもの。
 この頃のセーラはお昼近くなるとジムのためのお弁当を作って、ジムを探しに森の中へ入っていってる。物語ではジムに恋していたセーラの気持ちがたくさん描写されていたけど、日記の方ではジムとのことよりもアサとのことの方が多かった。もちろん、ジムとどんなやり取りをしたのか、そういうことも書いてあった。だけどそれは、「ジムとこういう話をしたことをアサに話した」というような書き方が多かったんだ。
 物語を読むことで、あたしはたぶん少しだけ先入観を植え付けられていたみたい。だけどそれにしてもだんだんおかしいと思い始めていた。セーラは本当にジムに恋をしていたの? 確かに、ジムに毎日お弁当を届に行っていたのは本当だったし、アサがセーラに片想いしていたのも本当だったけど。
 でも、あたしのそんな違和感も、セーラがジムに告白をするところまでだった。その日の日記はいつもの3倍以上あって、セーラがすごく悔しかったことや悲しかったことが切々と綴られていたんだ。
『 ―― 私はジムを手に入れたかった。ジムも私を愛してくれていると思っていた。最近少しだけ優しくなったのが私を愛し始めている証拠だと思った。 ―― ジムはもしかしたら、親友のアサの気持ちを考えていたのかもしれない。アサが私を愛していることを ―― 』
 セーラは確かにジムに恋をしていた。そしてもしかしたら、ジムもセーラを愛していたのかもしれないんだ。