続・祈りの巫女67
 帰り道はランドに送ってもらえることになって、月明かりの中ランプを照らしながら、ランドと並んで歩いていった。あたしは黙ったままで、ぜんぜん話をする気力が出てこなかった。リョウが、あんなに毎日話しにきてくれたのに、肝心なことは何も話してくれてなかったんだって判ったから。リョウにとってあたしは、恋人はおろか、対等に話ができる人ですらなかったんだ。
 やがて、沈黙に耐えられなくなったのか、ランドが話し掛けてきた。
「なんだかユーナを見てたら、ミイと付き合ってた頃のことを思い出したよ。……なあユーナ、ミイって美人じゃないだろ?」
 ……あたし、時々ランドのこと信じられないよ。なんで自分の奥さんのことそんな風に言えるわけ?
「どうしてそんなこと言うのよ。ミイはすごく素敵な人じゃない」
「いや、ミイは美人じゃないんだ。あの頃オレに気があった女の中でいちばん美人じゃなかった」
 そう断言されちゃったから、あたしはそれ以上何もいえなかった。
「ミイは、オレがもらってやらなかったら、もしかしたら売れ残っちまってたかもしれないんだ。オレはあの頃がいちばん必死だったな。早く一人前になってミイをもらってやらなきゃって、本気で狩人の仕事に打ち込んで、必死で腕を上げてた。だってな、オレが結婚するって言って、もし回りに、まだおまえに結婚は早すぎる、って言われたら、最低あと1年は結婚できなくなっちまうんだ。そんなことになったら、ミイは他の男のところに嫁に行っちまうかもしれないじゃないか。オレ、それが無性に嫌で。死に物狂いで仕事して、まわりに一人前だって認めさせようとしてた」
 ……そうか、ランドが言う「美人じゃない」って、別にミイをバカにしてる訳じゃないんだ。ランドはちゃんとミイのことを愛してるんだ。口ではいろんな悪口も言うけど。
「ユーナ、リョウもな、もしかしたら本気で焦り始めたのかもしれないぜ。リョウは今でもなかなか腕のいい狩人だが、まわりが認めるのはやっぱり、北カザムの夏毛皮を今年何枚取ってきた、なんていう実績だからな。毎日おまえを見張ってるだけじゃダメだと思ったんだろ。 ―― どんなヘチャだって、年頃になればそれなりに綺麗になるもんだからな」
 そんな、ランドの余計な一言で、あたしは思わずランドをうしろから殴り倒しそうになっていた。