続・祈りの巫女65
 ミイが運んできたお茶を1口すすって、深いため息をついたあと、おもむろにランドは話し始めた。
「ユーナ、塩がどこからくるか知ってるか?」
 突然予想もつかなかったことを言われて、あたしは驚いてしまった。しばらく沈黙があって、どうやらあたしが答えなければランドは話を進める気がないんだってことに気付いたから、しかたなくあたしは答えていた。
「北の山に岩塩の層があるんだって聞いたわ。前に家族で行ったピクニックの時に父さまが言ってたの」
「へえ、意外なことを知ってるな。だけど、今この村で使ってる塩は岩塩じゃないんだ。まあ、オレもそんなには詳しくはないんだが、この村を出てずっと南の方に行くと、水の代わりに塩が溜まった湖があるんだそうだ。その湖の塩を行商人がこの村に運んできてくれて、それをオレたちは料理に入れて食べてる。つまり、いまこの村で使ってる塩は、ぜんぶ他の村からの輸入品なんだ」
 なんだかランドの話はリョウのこととはぜんぜん関係ないみたいだった。あたしが知りたいのは、リョウが今どこでどうしているのか、それだけだったのに。
「それがリョウとどういう関係があるの?」
「まあ、黙って聞きなよ。行商人は他の村からこの村に塩を運んできてくれるが、もちろんタダって訳じゃない。塩と行商人の労力の代わりに、こっちの村からも何かを出さなきゃならない訳だ。でも、他の村にもたくさんあるものを出したって、行商人は喜ばないよな。そこでオレたち狩人の出番になる。この村でしか手に入らなくて、行商人がいちばん喜んでくれるのが、北カザムの毛皮なんだ。この毛皮は他の村でもかなり高い値段で取引されるらしい。……値段て言っても判らないかな。まあ、簡単に言えば、北カザムの毛皮とそこらにいる普通のカザムの毛皮とでは、行商人が交換してくれる塩の量が10倍以上も違うんだ」
「……」
「実際は北カザムの毛皮1枚欲しいがために、行商人は何人かで組んでやってきて、山道を背負って上がってこられるだけの塩と、通貨ってヤツを置いていく。その通貨は他の行商人に渡すと、村で作ったり取ったりできないいろいろな品物になって戻ってくる。つまりだ、オレたち狩人は、村の人たちの食卓を支えると同時に、より豊かな生活をも支えている、って訳なんだ」