続・祈りの巫女64
 ランドはリョウやあたしの実家の近くに住んでいて、そこはあたしがまだ小さかった頃に新しく建てた家だった。結婚してからもう何年か経つはずだけど、確かまだ子供はいなくて、夫婦で2人で住んでるんだ。ランドの奥さんはミイで、近所では有名なノロケ名人だったの。ランドは外ではミイの悪口ばかり言ってたけど、本当はすごく仲のいい夫婦みたいだった。
 朝が早い農家や子供のいる家の中には明かりが消えている家もあったけど、ランドの家はまだ明かりがついていた。ノックをすると、夜が遅いからかちょっと間があって、ドアの小さな隙間からミイが顔を覗かせた。あたしが持っていた灯りで自分の顔を照らすと、やっと気付いて扉を大きくあけてくれたの。
「ユーナ、どうしたの? こんなに夜遅くに」
「ごめんなさいミイ。ちょっとランドに相談があってきたの。ランドはいる?」
「まあ入ってちょうだい。ランドね、さっきまで起きてたんだけど、もしかしたら寝ちゃったかもしれないわ。今起こしてくるから」
「あ、それならいいわ。明日もっと早い時間に出直してくるから」
「違うのよ。今夜は真夜中に出かけたいからそれまで起きてるんだ、って、さっきまで寝ないで頑張ってたの。ちょうどいいから話し相手になってあげて。帰っちゃ嫌よ」
 そう言ってミイは寝室の方に行ってしまったから、あたしはその間に灯りを消して、さっき転んで汚れてしまったところをちょっとだけ叩いた。ほどなくして寝室から出てきたランドは狩人の仕事着のままで、ちょっと機嫌が悪そうに頭をかきむしっていた。
「なんだ、ほんとにユーナじゃないか。珍しいな。リョウと喧嘩でもしたのか?」
 そう言いながらランドが食卓に腰掛けたから、あたしも隣の椅子に座って言った。
「リョウが家に帰ってないの。昨日も帰ってこなくて、今日もいなかった。今までは毎日帰ってきてたのよ。もしかしたらどこかで怪我をして動けなくなってるかもしれないわ。お願いランド、リョウを探して。リョウを助けてあげて!」
 ランドはふっと顔を上げて、眠くて機嫌が悪いのが明らかに判る目をしてあたしを見つめた。そのあとうしろを振り返って、部屋の隅で繕い物をしていたミイにお茶を頼んだ。そのお茶が運ばれてくるまでの間、ランドは一言も口を利こうとはしなかった。