続・祈りの巫女62
 今日もカーヤは夕食の時間を早くしてくれたから、あたしはまたリョウの家を尋ねていた。でも、リョウは家にいなくて、それどころか家の中は昨日あたしがきた時とぜんぜん変わってなかったの。リョウは昨日は家に帰ってない。そして、今日も1度も帰ってきてない。
 暗くなるまで待っていたのに、けっきょくリョウは帰ってこなかった。リョウを待っている間、あたしはいろいろなことを考えてしまって、しだいに不安になってきていた。あたしと顔を合わせるのが嫌で誰かの家に泊まってるのかもしれない。それならまだいいんだけど、例えば狩りで怪我をして動けなくなってしまったとか、あやまって穴に落ちて誰かに見つけてもらうのを待っているとか。そういえばマイラが、リョウは大人になったら村を出て行くと思ってた、って言ったんだ。もしかしたら、2日前のあの出来事で昔の自分を思い出したリョウは、村にいるのが嫌になってどこか遠くへ行ってしまったのかもしれない。
 そんなことを思ったらいてもたってもいられなくて、暗くなった坂道を駆け上がって、宿舎に飛び込んだ。宿舎の中には驚いて目を見開いたままのカーヤがいた。あたしは何の前置きもしないで、いきなりカーヤに叫んでた。
「カーヤ! リョウが帰ってないの。リョウがいなくなっちゃたの!」
 カーヤはあたしを見てずいぶん驚いたみたい。そういえば坂道で何回か転んだから、服が汚れてたり破れてたりしたのかもしれない。
「落ち着いてユーナ。リョウが家にいないの? まだ帰ってないだけじゃないの?」
「違うの! リョウ、昨日も帰ってないの。リョウは独り暮らしで誰も一緒にいないんだもん。どこかで倒れてたりしても気付いてもらえてないかもしれないよ!」
 あたしがそれだけ焦っていたのに、カーヤはぜんぜん焦ってなくて、あたしはなんだかそれがすごく腹立たしく思えた。のんびりした動作でコップに水を注いで、テーブルのあたしの席に置いて言った。
「まずは水を飲んで。話はそれから」
 あたしは、今までカーヤとは一緒に暮らしてきたから、カーヤがこういう言い方をしたときは、言う通りにするまで何も進まないことが判ってしまっていた。しかたなく、あたしはテーブルからコップを取り上げて、水をぜんぶのみ干した。少しだけ落ち着いたかもしれない。そうして顔を上げると、カーヤはほっとしたように笑顔を見せた。