続・祈りの巫女60
 けっきょくこの日、あたしはリョウに会うことができなかった。リョウの家までたどり着いても中には誰もいなくて、しばらくは帰ってくるのを待ってみたけれど、リョウはなかなか帰ってはこなかったんだ。最近はあまりなかったのだけど、以前のリョウは酒場でランドとお酒を飲むこともあったから、あたしはそれほど気にしていなかった。リョウだって、昨日みたいなことがあったら、誰かとお酒を飲みたくなるかもしれないと思ったから。
 翌日、あたしはセーラの物語を書庫に返しに行って、そこでタキと少し話をした。タキは書庫の隣にいくつかある作業部屋の方じゃなくて、わざわざ書庫の中に1ヶ所だけある作業机を他の神官に空けてもらって、そこにあたしを通してくれたんだ。作業していた2人の神官は快く場所を空けてくれたから、なんだかあたしの方が恐縮しちゃったの。そうタキに言うと、タキはにっこり笑ってあたしに言った。
「祈りの巫女は気にしなくていいんだ。神殿や神官は、もともとは巫女のためにできたんだから。ここでは神官よりも巫女の方が優先なんだよ」
 あたし、今までそんなこと考えたこともなかったから、ちょっと驚いてしまったの。確かに神官たちはいつも巫女には親切だったけど、そんな決まりがあったなんて思ってもみなかったから。
「神官はいつも巫女に譲らないといけないの? そんな決まりがあるなんて知らなかったわ。どうして?」
「別に決まりがある訳じゃないんだけどね。みんな自然にそう思ってるんだ。祈りの巫女はこの村に最初に生まれた巫女の話を知ってる?」
 この村に最初に生まれた巫女の話。それは、あたしたちが巫女になったとき、最初に話してもらう物語だ。まだ、この村ができたばかりだった頃、初めて生まれたのは予言の巫女。小さな女の子は、言葉を覚える頃にはもう予言の力を持っていて、この村を巫女のいる村へ導く第1歩を築いたんだ。
「予言の巫女の話を知らない巫女はいないわ。あたしもそのくらいは覚えてるよ」
 あたしがちょっとだけふくれて言うと、タキは苦笑いで返した。