続・祈りの巫女61
「最初に生まれた予言の巫女は、自分が生きている時代だけじゃなくて、それから先の、例えば今オレたちが生きている現代のことも予言できたのだと言われてる。予言の巫女には未来が見えたから、この未来のための礎をたくさん築いたんだろうね。彼女の予言によって神殿が作られて、後継者として守護の巫女、神事の巫女、予言の巫女の3人が生まれて、それを補佐する役目の神官の制度を作ったんだ」
 あたしは、自分が予言の巫女の話を忘れていないことをタキに教えたくて、ちょっとだけ口を挟んでいた。
「のちに神事の巫女が祈りの巫女と聖櫃の巫女に分かれて、予言の巫女が運命の巫女と神託の巫女になったのね」
「そう。彼女の偉いところは予言の巫女の位を最下位に置いたことだ。だからのちに予言の巫女が運命の巫女と神託の巫女に分かれたときも、2人の巫女の位順はいちばん最後になってる。古代文字から新しく現代文字が生まれたのもぜんぶこの時代だ。……んまあ、要するに、オレたちはそんな話を神官になる前に聞かされる訳だから、神官は巫女を補佐するためのもの、っていう考え方が、頭に深ーく刻まれてるの。そもそも巫女がいなかったら、神官には存在する意味がないんだ」
 タキの口調には、卑屈になったりするような感じはまったくなくて、むしろ巫女がいることを本当に喜んでいるような、そんな雰囲気があった。神官はずっと昔から巫女を助けてくれているんだ。そして、自分の名前が残ったり、名声が称えられることなんか何もないのに、学ぶことと人の役に立つことが嬉しいからずっと神官でいてくれるんだ。
「存在する意味がないなんて、そんなことはないわ。もしも巫女がいなくても神官はちゃんと村の人の役に立ってるもの」
「そうでもないよ。巫女がいるから神官は昔の書物から自由に学んでいられるんだ。オレはこの村に生まれて本当によかったよ。他の村に生まれてたら、オレもきっと畑仕事かなんかを一生やらなきゃならなかった。この村も、万が一巫女が1人もいなくなったら、他の村と同じように変わっていくんだろうね」
 あたしには、この村以外の村がどんな風なのか知らなかったから、それ以上タキの言葉に反論することができなかった。あたしには知らないことがすごくたくさんあるんだ。他の村のことも、この村のことも、あたしはたくさん学ばなくちゃいけないんだ。
 急だったから、タキはまだあたしにセーラの日記を読ませてもらう許可を取っていなくて、この日は日記を読むことができなかった。
 あたしはタキと明日また会う約束をして、神殿をあとにしていた。