続・祈りの巫女57
 あたしはできればずっとリョウと一緒にいて、結婚してリョウの家族になって、そのうち子供が生まれて、いつまでも幸せに暮らせたらいいな、って思ってた。昨日、マイラや母さまにリョウの話を聞いて、そのあとほんの少しだけリョウの本心を見ることができたから、リョウがどんな人なのかは判ったような気がしていたの。小さな頃、リョウは回りの人に自分を理解してもらえなくて、すごく傷ついて、だからシュウの真似をすることで愛される人になろうと思った。シュウの真似は今でも続いてるんだ。だから本当のリョウはまだ小さな男の子のままで、理解されないままで、今でもずっと傷ついているんだ。
 もしもリョウがシュウの真似をして優しい人にならなかったら、あたしはリョウを今みたいには好きにならなかったかもしれない。逆に意地悪で嫌な男の子だと思い続けてたかもしれない。でも、あたしだってだんだん大人になって、マイラや母さまがリョウを理解しようとしたように、リョウを理解しようとしたかもしれないんだ。そして、すごく時間がかかっても、いつかはリョウを好きになったかもしれない。
 リョウの心の中には傷ついたままの小さな男の子がいる。あたしのためにあたしのシュウになろうとしてくれたリョウは、傷を癒すチャンスを失ってしまった。大人になっても本当の自分をまわりに見せることができなくなってしまった。小さなリョウを傷つけて、リョウを変えてしまったあたしが、こんどはリョウの傷を癒してあげなければいけないんだ。
 あたしはリョウにたくさんの優しさをもらったんだもん。次はあたしがその優しさをリョウに返す番。本当のリョウのままでいてもリョウはちゃんと愛される人なんだって、あたしが教えてあげなきゃいけないんだ。
 朝、目が覚めてからベッドの中で昨日のことを復習したあと、ようやくあたしは身体を起こした。カーヤはもう起きていたみたいで、台所からは朝食を作る包丁の音が聞こえていた。あたしがドアを開けると、カーヤは振り返って、あたしに微笑んでくれた。
「おはよう、ユーナ。昨日はちゃんと眠れた?」
 そう言ったカーヤは笑顔だったけど、カーヤの方はちゃんと眠れてないことがあたしには判ってしまった。
「おはようカーヤ。あたしはよく眠れたわ。昨日は久しぶりに歩き回ったから疲れちゃってぐっすりよ」
 あたしも、なんとなく本当のことは言わない方がいい気がして、眠りにつくまでにちょっと時間がかかったことは黙っていた。