続・祈りの巫女54
 リョウに見送られて、あたしは神殿への坂道を登っていった。森を出る時に1度振り返ると、リョウがずっとそのまま動かずにあたしを見送っていてくれることに気がついた。また、少しだけさっきの悲しい感情がよみがえりそうになったけど、それを振り払うようにリョウに背を向けて、早足で森から離れた。神官たちの宿舎脇から、神殿前の広場を大きく回って祈りの巫女の宿舎前まで来る頃には、あたしの頭の中からリョウはいなくなって、カーヤのことだけでいっぱいになっていた。
 宿舎の中はしんとしていて、あたしが出て行ったときと少しも変わらないように思えた。念のためノックをして中に入ると、部屋の灯りもそのままで、カーヤが部屋から出たりした様子もなかった。本当はどうなのかな。それは判らなかったけど、カーヤがあのあと部屋から飛び出してどこかへ行ってしまったとは思えなかったから、あたしは台所に立って、カーヤのための夕食を作り始めたの。
 ジャガイモさん、カーヤみたいに上手に料理してあげられないけど、許してね。カーヤは今お腹を空かせているはずなの。カーヤのために、今あたしにはあなたが必要だから。
 野菜を手にとって、そのたびに一言ずつ心の中で声をかけて、包丁で刻んで、鍋に入れた。ご飯が少しだけおひつに残ってたから、それもスープの中に放り込んで、リゾットにしちゃう。ジャガイモとハムのリゾット。味を調えてお皿に盛って、カーヤの部屋をノックしたあと、返事を待たずにあたしは部屋の中に入っていった。
「カーヤ、お腹すいたでしょう? ……あたし、カーヤみたいに上手に作れてないかもしれないけど、よかったら食べてね」
 ベッドの方で、かすかに人が動く気配がした。
「……ユーナ、あなたって、本当にずるい子」
 あたしが意味を掴みかねて返事ができないでいると、カーヤはベッドから起き上がって、お皿を置いた机のところまで歩いてきた。開け放したドアからの灯りでカーヤの表情が見える。泣き腫らした目に、今はっきりと笑顔を浮かべていた。
「料理であたしを釣るなんて卑怯よ。だって、あたしが料理を食べずに捨てられる訳なんかないじゃない。それに……さっきからジャガイモが訴えてるのよ。カーヤ、ユーナを怒らないで、ユーナのことを許してあげて、って」
 カーヤの表情を見て、あたしはカーヤとの仲直りがうまくいったことを感じていた。