続・祈りの巫女52
 いつか、リョウのお嫁さんになりたい。リョウのことをちゃんと判って、リョウを助けられる人になりたい。リョウが安心して笑ったり怒ったりできるような、そんなたった1人の人になりたい。
「……ここからは、1人で帰れる?」
 歩きつづけていたリョウは、立ち止まって、そう言ったあと振り返った。そこはまだ月明かりも届かない森の中で、リョウの顔をちゃんと見ることはできなかったけど、リョウが少しだけ微笑んでいることは判った。
「宿舎まで来てくれないの?」
「たぶん、カーヤはまだオレの顔を見たくないだろうから」
 そうだ、リョウはカーヤに告白されて断ったんだ。リョウはカーヤのことを好きじゃないって言ってた。リョウは誰が好きなの? あたしのことを好きでいてくれる? ほんの少しでも、あたしをお嫁さんにしたいと思ってくれてる?
 それとも、リョウの中ではあたしはやっぱりまだ子供のままで、小さなリョウを傷つけた、怯えた女の子でしかないのかな。
 あたしがリョウを怖がらなくなって、リョウもあたしを怖いと思わなくなったら、いつかお嫁さんにしたいと思ってくれるのかな。もしもあたしがリョウに告白しても、リョウはあたしを断るのかもしれない。あたしはカーヤや、物語のセーラのように、独りでベッドの上で泣くのかもしれない。
 帰りたくない。リョウを1人にしたくない。あたしがいないところで他の女の子と話しているリョウなんて、想像したくないよ。
「……判ったわ。大丈夫よ。もうすぐそこだもん。森を出たら少しは明るくなるし……」
「え……?」
 あたしが勇気をふりしぼって言った言葉が、少しだけ震えていて、声しか聞こえないはずのリョウにも判ってしまったみたい。両手を伸ばしてあたしの頬に触れた。リョウの大きな手が、頬に流れた涙のあとをなぞって。
「ユーナ、どうして……」
 その涙の理由は、あたし自身にもよく判ってはいなかった。