続・祈りの巫女53
 初めてだった。理屈で考えたら悲しいことなんか何もないのに、あたしは感情に流されるように涙を流していた。もう夜も遅いのだから、あたしもリョウも家へ帰るのはあたりまえだった。リョウには仕事があって、昼間狩りに出掛けたり、他の人と話をしたりするのもあたりまえのことだった。その中にはきれいで優しい女の子だっているかもしれない。今まではそんなこと、ずっとあたりまえだと思ってきたのに。
 リョウが帰ってしまうのが悲しかった。こんなこと、リョウを困らせるだけだったのに。
 いつまでも泣いてたら、またリョウに子供だって思われちゃうよ。
「ユーナ、ごめん。オレが悪かったから」
 あたしの頬に触れたまま、リョウは片膝をついて、そう言った。
「……どうして謝るの? リョウは何も悪くないの。あたしが勝手に泣いてるだけなの。どうして自分が悪くないのに謝るの?」
「そうかもしれないけど、でもやっぱりオレも悪いんだ。……もし、宿舎に帰るのが嫌だったら、ユーナが帰りたいところへ送っていくから。……両親のところがいい?」
 そうか、リョウ、あたしが突然泣き出したのが、カーヤと顔を合わせるのが嫌なんだって、そう思ったんだ。リョウがカーヤの名前を口にしたすぐあとにあたしが泣き出したから。
 それであたしも気がついていた。カーヤと仲直りをしなくちゃいけない。今日、ちゃんと仲直りできなかったら、これから先一緒に暮らしていくのがすごくつらいことになっちゃうもの。
 ようやくあたしの気持ちが感情から離れてくれた。自分で涙をぬぐって、リョウの両手を頬から引き離して握り締めることができた。
「リョウ、心配してくれてありがと。でも、カーヤはあたしの友達だから、自分でちゃんと仲直りしなくちゃダメなの。リョウがカーヤの気持ちにこたえられなくても仕方がないのに、さっきはリョウのこと怒鳴っちゃって、ほんとにごめんなさい。リョウの気持ちはリョウのものだもん。リョウがカーヤを好きにならなかったからって、あたしがあんなこと言うべきじゃなかったの」
 あたしはそうリョウに話しながら、リョウにはもっと他に言うべきことがあるような、そんな気がしていた。