続・祈りの巫女51
 たぶん、リョウも戸惑っていたのだと思う。送っていく、って一言だけ言って、あたしの前に立って歩き始めた。お互いにお互いの顔を見ることができなくて、しばらくは黙ったままで、あたしはリョウのうしろを歩きつづけていた。
 リョウは背が高くて、肩ががっちりしていて、背中が広かった。いつもあたしの頭をなでてくれる手も、さっきあたしの腕を掴んだ手も、すごく大きくて力強かった。リョウの後姿を見ながら、あたしはやっぱり、リョウのことを好きなんだって思った。さっき、カーヤが泣いてて、あたしはすごく悲しかったけど、でもやっぱりリョウをカーヤに取られたくなんかないよ。
 本当のリョウを知ったらリョウのことを好きじゃなくなるかもしれないって、そう思ったのが嘘みたいだった。リョウ、お願い、どこにも行かないでね。リョウはきっとモテるから、きれいな子や優しい子がいっぱいリョウに告白するかもしれないけど、その中の誰とも付き合わないでね。あたしがもう少し大人になるまで待ってて。あたし、ぜったい、リョウにふさわしい女の子になるから。
  ―― あたしが祈りの巫女になったあの時、リョウはあたしに、自分の過去について訊かれるのが怖かった、って言ってた。6歳の時に記憶をなくしてしまったあたしが、昔リョウがいじめっ子だったことを覚えていなかったから、リョウはずっとあたしに優しくすることができたんだ。もしかしたらリョウは、あたしが思い出せないでいた7年間も、ずっと怖かったのかもしれない。いつかあたしが思い出して、小さな頃リョウを嫌っていたみたいに、リョウを嫌いになってしまうかもしれない、って。
 本当に怖がっていたのはリョウの方なんだ。正直な自分を見せたらあたしがおびえると思って、あたしに嫌われると思って、それが怖くていつも優しさで自分を覆っていた。あたしはいつも、そんな優しいだけのリョウを見ているのが不安で、なんとなく怖いと思っていた。そんなあたしの不安もリョウには伝わっていたんだ。だから、リョウはもっと優しくなろうとしていたんだ。
 あたしはもう大丈夫。リョウがどんな自分を見せてくれても、それがリョウなんだって、素直に受け入れられる。あたしはもう小さな女の子じゃないよリョウ。だからリョウも、そんなに優しいリョウだけ見せてくれなくても大丈夫だよ。