続・祈りの巫女46
 リョウはきっと、すごく不器用な子供だったんだ。
 自分の気持ちを大人たちに話したり、判ってもらったり、そういうことがすごく苦手で、でも判って欲しかったから、わざと素直じゃない子供になってたんだ。
 あたしに意地悪したのも同じなんだ。あたしがシュウと遊ぶことだけに夢中で、ぜんぜんリョウの方を見なかったから、あたしに自分を見て欲しくて意地悪ばかりしていたんだ。
「リョウはね、ユーナ。他の子よりもほんの少しだけ要領が悪かったのだと思うわ。大人は素直な子供の方が愛情を注ぎやすいと思うから、子供もそれを察して自然に素直になっていくものよ。そういう子供が多いから、大人もリョウのような子供にどう接すればいいのか、よく判らないのよ。だから心にもないことを言ってしまったり、きつい態度を取ってしまったりして、リョウ自身もどうすればいいのかよく判らなくなってしまったのね。あの頃はリョウの周りにいたみんなが不運な悪循環に陥っていたのだと思うわ」
 そうか、リョウにはきっかけが必要だったんだ。
 素直になれば大人に愛されることが判るきっかけ。人に優しくすれば、同じ優しさをもらえることが判るきっかけ。そして、そのきっかけが、シュウが死んだことだった。リョウは変わりたかったんだ。だからシュウのようにあたしに優しくしようと思って、それをきっかけにして、まわりと溶け込める優しい人間に変わっていったんだ。
「母さま、リョウはね、シュウを失ったあたしのシュウになろうと思ったの。それって、リョウにとってはいいことだったのね」
 母さまは笑顔だったけど、少しだけ、笑顔の中に困惑を含んでいた。
「そうね、結果的にはいいことだったのかもしれないわ。でも、母さまは小さな頃のリョウも大好きだったから、あのリョウが大人になるところも、少しだけ見たかったわね。……もちろん、今のリョウも母さまは好きよ。勘違いしないでユーナ」
 母さまの言うこともなんとなく判る気がした。でも、あたしにたくさん優しくしてくれて、あたしに祈りの巫女になる自信をくれて、それからもずっと励ましてくれたのは優しく変わったリョウだったから、あたしはリョウが変わってくれてよかったと思った。
 小さなままのリョウだったら、あたしはリョウを好きにならなかったかもしれない。