続・祈りの巫女44
 そうだ、母さまはいつも言ってたんだ。何もかもを欲張ってはいけない。何かをなくしても、一生懸命に生きていたら、それはきっと神様が見ていてくださるんだ、って。マイラの子供はあたしの祈りだけで生まれたんじゃない。マイラがずっと一生懸命に生きていたから、あたしの祈りを聞いて神様が授けてくださったんだ。あたしの祈りだけでも、神様の力だけでも、人間は幸せになんかなれない。自分で一生懸命にならなかったらだめなんだ。あたしができることって、一生懸命に生きている人がいて、その人のことを神様に知らせるって、たったそれだけのことなんだ。
「あたしは幸せな人のことを祈ってもダメなのね。でも、母さまのこれからの幸せを祈ることはできるわ」
「母さまのことはいいわよ。ユーナには村の人たちのことをたくさん祈って、できるだけたくさんの人を幸せにしてあげて欲しいわ。そうね、オミのことは祈ってあげて。怪我や病気をしないで、結婚して幸せになれるように」
「うん、判ったわ。これからはオミのことも祈るようにするわ」
 あたしがこれからしなければならないこと。マイラが幸せになったときに見失ってしまったその答えはまだ見えないけれど、あたしは祈ることをやめちゃいけない。たとえ小さなことでも、少しずつ祈っていれば、少しずつみんなが幸せになっていくんだもん。それからあたし、もっと村の人と話をしなくちゃいけないんだってことにも気付いた。一生懸命生きている人がいても、あたしがそれを知らなかったら、神様に届けることだってできないんだから。
 お昼ご飯は母さまと2人だけで、あたしはお手伝いをしながらまたカーヤが言ったことを思い出した。でも、あたしだって料理を練習しなかったらいつまでたっても上手にならないから、野菜に心の中で謝りながら包丁を握っていた。ごめんなさい、そしてありがとう。いつか必ず上手になって、おいしく食べてあげられるようになるからね、って。
 オミも父さまもいない食卓は初めてだった。あたしはテーブルのいつものあたしの席で、なんとなく広く感じる食卓を見ながら、母さまの昼食を久しぶりに味わっていた。
「ユーナは? 最近はどう? リョウは元気にしているの?」
 訊かれて、あたしはなにから話をしようか、少し考えてしまった。