続・祈りの巫女45
「リョウは元気よ。今でも毎日あたしの宿舎に話しにきてくれるの。仕事の方も順調みたい」
 あたしの様子が変わったことに気付いたのだろう、母さまはちょっと笑顔を曇らせた。
「リョウのことで何か心配事があるの?」
「ううん、心配事ってほどでもないの。ただね、……さっきマイラにちょっと相談してきたの。ねえ、母さま。リョウは小さな頃、あんまり素直な子供じゃなかったの?」
 母さまは記憶を辿るように少し視線をそらした。
「……そうね、シュウが亡くなるまでのリョウは、少しだけ難しい子供だったわね。でも母さまはそんなに悪い子だとは思ってなかったのよ。たぶんそういう大人たちの気持ちを、リョウは他の子よりも少しだけ敏感に感じる子供だったのね。だから母さまにはそんなに反抗的じゃなかったの。……思い出したわ。まだ、そうね、ユーナが4歳にもならない頃、母さまはリョウにお菓子を渡して、ユーナと一緒に食べてちょうだいね、って言ったことがあるの。リョウはしばらくして戻ってきて、シュウが一緒だったから食べられなかった、って、渡したお菓子をぜんぶ返してくれたわ。その時のリョウったら、とても悔しそうでね。
 大人ならね、リョウがお菓子を持っていったときにユーナとシュウが一緒にいたら、3人で食べればいいと思うわ。べつに母さまはリョウに、ユーナと2人だけで食べて、なんて言わなかったんだもの。でも、リョウは母さまが言った、ユーナと一緒に食べてね、っていう言葉を、2人だけで食べて欲しい、って解釈したのね。だからリョウはとても素直に母さまの言ったことを守ろうとして、でも守れなかったから、母さまに謝りにきたのよ」
 あたしは、母さまの話を聞きながら、小さかったリョウの姿が見えたような気がした。
「母さまね、リョウがかわいそうになっちゃって。いろいろ考えたんだけど、けっきょくその時はお菓子を半分だけリョウに渡して謝ったの。この次はシュウの分も作っておくわね、って。それをどう思ったのかは判らないけど、リョウはちゃんと小さな声でお菓子のお礼を言ってたわ。難しい子だったけど、でもリョウはとても素直な子でもあったのよ」
 母さまの話であたしは、小さなリョウがどうして反抗的だったのか、少しだけ判ったような気がしていた。