続・祈りの巫女43
 祈りの巫女になった1年と少し前、あたしはこの家を出て、独立した。ここはもうあたしの家じゃないんだ。母さまも父さまもオミもあたしの家族だけど、あたしだってみんなの家族だけど、ここはもう、あたしの家じゃないんだ。
「母さま、寂しい?」
 あたしが訊くと、母さまはちょっと首をかしげるようにして微笑んだ。
「そうね、少し寂しい気がするけど、子供が大人になるのはあたりまえだもの。ユーナはたった13年で祈りの巫女になってしまったわ。オミだってもう何年もしないうちにこの家を出て行ってしまう。親が子供を育てる時間て、本当に短いのよ。だからいつまでも寂しいなんて言ってられないわ。……そうね、これから子供を育てられるマイラのことが、少しだけ羨ましいわね」
 母さまの話を聞きながら、あたしは母さまの話し方も前と違うことに気がついていた。もしかしたらあたし、少し敏感になりすぎてるのかもしれない。今まで気付かなかったことにすごくたくさん気付いてるの。もしかしたら、母さまはずっとそうしてきたのかもしれない。あたしが気付かなかっただけで、母さまはあたしが祈りの巫女になってからずっと、あたしをそう扱ってきたのかもしれないんだ。
 いつの間にか、母さまはあたしのことを、1人の大人として見て話していた。あたしが12歳の頃は母さまはあたしに対して弱音を吐くようなことはしなかった。もともと母さまは簡単に弱音を言ったりしない人だったけど、今の母さまはほんの少し、あたしに対して弱いところを見せているから。
 大人として扱われるって、こういうことでもあるんだ。あたしは誇らしく思ったと同時に、少しだけ母さまが小さくなってしまったような気がして、ちょっと寂しく思った。
「母さまだってまだ間に合うわ。だって母さま、マイラとそんなに違わないでしょう?」
 あたしがそう言ったら、母さま本当に顔を赤くしちゃったの。
「ユーナ、あなたって子は……。マイラはね、特別なのよ。1人だけ授かった子供をたった5歳で亡くしてしまって、それでもずっと一生懸命に生きてきたから、神様が再び子供を授けてくださったの。母さまは2人も子供を授かって、その2人はこんなに大きくなって、今では自分の力で生きようとしているわ。母さまほど幸せな人は他にいないのよ。母さまにはもう神様は何も与えてくださらないわ」