続・祈りの巫女42
「お昼ご飯は食べていくんでしょう?」
「うん、そのつもり。今日はね、久しぶりに母さまのお手伝いをしようと思ってきたのよ」
「それは嬉しいわね。夜は? やっぱり神殿に帰るの?」
「今日は神殿には何も言わないで出てきちゃったから。ここに帰ってきたのも、本当はマイラのお祝いのついでなの」
「まあ、ついでにされちゃったのね。でも帰ってきてくれて嬉しいわ。ユーナがいないと、この家もずいぶん広いのよ」
 あたしはまた、しばらく帰ってこなかったことを申し訳なく思った。母さまは父さまがいない間、この家で1人きりなんだ。今はまだ弟のオミがいるけど、オミだっていずれは独立するんだもん。そうなったら母さまは本当に1人きりになっちゃうんだ。
「今日はオミは? またソズと遊んでるの?」
 母さまはお茶を一口飲んでから、静かに言った。
「このところね、オミは父さまの工房に行ってるのよ。父さまの仕事に興味があるみたいね」
 あたしの父さまはガラス職人をしている。あたしは母さまの言葉に驚いた。
「オミはガラス職人になりたいの?」
「そうはっきりとはまだ決めてないみたいね。今はまだ父さまの仕事をうしろで見ていて、お掃除を手伝ったり、雑用をさせてもらっているらしいわ。だから朝は大変よ。母さまは2人の分のお弁当を作らなくちゃならないの」
 あたしはしばらくは母さまの話に返事ができないくらい驚いていた。オミはあたしよりも3歳年下で、だからまだ11歳なんだ。あたしは小さな頃から祈りの巫女になるんだって言われて育ったけど、11歳の頃はたぶん、その仕事を一生やっていく心構えなんてぜんぜんできてなかった。リョウだってそんなに早く大人になんかならなかったよ。あたしが10歳くらいの頃にようやく狩人の見習いをはじめて、だからあたし、リョウと遊べなくなったのがすごく寂しく思えたんだ。
「ユーナが祈りの巫女になってから、オミは急に大人びたわね。男の子としての自覚が出てきたのかもしれないわ」
 あたしの知らないところで、家族がどんどん変わっていく。あたしはその事実を初めて突きつけられたような気がしていた。