続・祈りの巫女40
 もしもリョウが優しくなくなったら、あたしはどうするんだろう。昔の意地悪なだけのリョウに戻ってしまったら。
 セーラ、あなたは、どうしてあんなに意地悪なジムを好きでいられたの?
「……判らないわ。あたしは優しいリョウのことを好きになったから、優しくないリョウのことも好きでいられるかどうかなんて、判らない。でも、あたしは知りたいと思うの。リョウが本当はどんな人で、いつもどんなことを考えてるのか。あたしが話すことを喜んでるのか、怒ってるのか。リョウが怒ってたらあたし精一杯謝るもの。それでリョウが許してくれたら、その方がずっと嬉しいと思う。そうだ、あたしがリョウを優しい人にできたら、その方が嬉しいのよ」
 その時、マイラは初めて立ち上がって、あたしの頭をなでた。
「ユーナもすっかり女になったわね。……1つだけ忠告。ユーナ、男の人のプライドを傷つけちゃダメよ」
 あたしには意味が判らなくて、きょとんとしてマイラを見上げていた。
「今は判らなくてもそのうちに判るわ。リョウも、さっさとプロポーズしてくれればいいのにね。こんないい子をずっと放っておいたら、ぜったい誰かに取られちゃうわ」
 あたしはマイラの言葉にちょっと照れてしまっていた。
「リョウはあたしにプロポーズしたいなんて思ってないかもしれないわ」
「万が一そうだとしたらリョウの見る目がなさ過ぎるのよ。自信を持ってねユーナ。あなたはぜったいに幸せになれるわ」
 マイラはそう言ってくれたけど、あたしは自分がリョウにふさわしいかもしれないなんて、少しも思えなかった。だって、あたしには何もないんだもん。カーヤみたいに料理が上手なわけじゃないし、マイラみたいにお裁縫が上手なわけでもない。神様に祈りを届けたり、文字が読めたり書けたりしても、結婚して役に立つようなことじゃないから。
 あまり赤ちゃんの迷惑になってもいけないから、あたしはもう一度ライの顔を見て、マイラにお礼を言って、マイラの家を辞した。坂を降りて、母さまと弟のオミがいるはずのあたしの実家へと足を伸ばした。
 歩きながらも、あたしはマイラが言ったたくさんのことを思い出して、複雑な気持ちになっていた。