続・祈りの巫女38
 シュウが死んだ時の思い出は、マイラにとってはすごくつらいことなんだ。あたしはマイラに、その時のことを思い出させようとしている。あたしはマイラに訊くべきじゃなかったのかもしれない。
 でも、ほんの少し目を伏せていただけで、マイラはまた顔を上げて微笑んだ。
「子供の頃のリョウはね、こう言ってはなんだけど、あんまり素直な子ではなかったわ。大人が、これはダメだ、って言えば、かえってそればかりをやってしまうような。あたしが子供の頃、やっぱり近所に同じような子がいたの。その子は大人になるとすぐに村を出て行った。だから、リョウもきっと村を出て行くだろうって、あたしはそんな風に思っていたの」
 マイラが話す昔のリョウは、今のリョウとはぜんぜん違う人のようで、あたしにはまったく実感が湧かなかった。今のリョウはすごく回りに優しくて、誰にでも好かれて、村のみんなに頼りにされていたから。今のリョウを見ていて、リョウが村を出て行くかもしれないなんてぜったいに思えない。あたしは小さな頃リョウが意地悪だったことを思い出したけど、でもその時はあたしも子供だったから、マイラの話はまるで別の人のことを話しているような気がしていた。
「今のリョウはすごく優しいわ。リョウは、シュウが死んだことで自分が変わったんだ、って、そう言ってたの。人に優しくすることが正しいことだって判ったの」
「ええ、シュウが死んだことがリョウに影響を与えたことは、あたしにも判ってたわ。あの時を境に、リョウは本当に変わったの。まわりに対してすごく優しくなって、素直になってね。ユーナにもとても優しくて、あたしはまるでシュウがリョウに乗り移ったような気がしたものよ。……ねえ、ユーナ。リョウはもしかして、シュウの代わりになろうとしていたんじゃない?」
 あたしは、1年余り前のリョウがあの時言った言葉を思い出しながら答えた。
「優しかったシュウを失った、ユーナのシュウになれるかもしれない、って ―― 」
 言いながらだんだん、あたしは身体が震えてくるような感じを覚えていた。