続・祈りの巫女33
 包丁を握ったカーヤの手は、ちょっとだけジャガイモの角度を変えたあと、手早く皮を剥いていった。いびつなジャガイモの表面をほとんど同じ厚みでなでていく。残った芽を掘り取って、表面を少し水にさらして、まな板の上で切り分ける。あたしにはごく普通の切り方に見えるけど、きっとこれもジャガイモの言う通りにしてるんだ。
 手を動かしながら、カーヤは静かに言った。
「初めてユーナと住み始めた時は、ユーナとあたしとは初対面じゃなかったけど、それほどお互いのことが判ってた訳ではないわ。そういうときにね、いきなりこんな話をしてしまうのって、やっぱり少し抵抗があったの。一緒に住んでいるうちに少しずつ判ってきて、あたしにもユーナがどんな子なのか判って、ユーナなら話しても大丈夫かな、って思った。でも、きっかけがなければなかなか話せることじゃなかったから」
 そうか。例えばあたしが今、知らない人にいきなり「自分は野菜の気持ちが判るんだ」って言われても、すぐに信じられるかどうか判らないんだ。逆に、なんかこの人変な人だな、って思うかもしれない。今までずっと一緒にいたカーヤだから、あたしはカーヤの言葉が信じられるんだ。カーヤだって、あたしのことを信じてくれたから、今日話してくれたんだ。
「カーヤ、打ち明けてくれてありがと。あたし、カーヤのことが大好きよ」
 あたしがそう言ったとき、カーヤは再びあたしを振り返って、ちょっと困ったような表情で、でも微笑んでいた。
「……リョウがどうしていつもユーナの頭をなでるのか、よく判ったわ」
 言われた意味をつかみかねてきょとんとしたあたしを、今度はカーヤはもっとはっきりした表情で笑った。
「本当にユーナは無邪気で、かわいくて、思わず頭をなでないではいられなくなっちゃうのね。ほんと、ユーナは羨ましいくらい無邪気で、悪気がなくて、いい子だわ」
 あたしはなんだか照れくさくて、でもカーヤの表情には少しからかうような雰囲気もあったから、ちょっとふくれたような顔つきで答えた。
 このときあたしは、カーヤがあたしに隠していることがまだあったなんて、思ってもみなかった。