続・祈りの巫女32
「それじゃ、ユーナに訊くけど。……ユーナはこれから生きていって、でもいつかは死ぬわね。ユーナは、死ぬために自分を産んで育てるなんてひどい!って両親を恨むの?」
 思いがけないことを言われて、あたしは驚いてしまった。
「そんなこと思わないわ! だって、あたしが死ぬのはあたりまえだもん。だから生きてる間にいろんな事をして、楽しいこともいいこともたくさんして、みんなの役に立つんだもん。生まれてこなかったら、そういうことが何もできないんだもん。産んでくれた父さまや母さまを恨むわけないわ」
「野菜だって同じよ、ユーナ。生きている間に楽しいことをたくさん経験して、最後は人に食べられて終わるの。だから人に感謝することはあっても、人を恨んだりはしないわ。……人間は誰でも死ぬけど、できれば好きな人たちに囲まれて、看取られて死にたいわよね。突然の事故や病気で独りで死にたくはないわよね。あたしは野菜の、最後に1番おいしく料理して食べてもらいたい、って願いをかなえてあげたいと思うの。食べられずに捨てられてしまったり、料理に失敗してあまりおいしくなくなってしまうのも野菜の最後の1つの形だけど、おいしく料理して食べてあげられたら、野菜も幸せだと思うのよ」
 そうか、野菜も人間と同じなんだ。
 生まれてきたことが喜びで、生きていることが楽しくて、あたりまえのように死んでいく。あたしが料理した野菜たちだって、そりゃ少しは「ユーナが料理したんじゃあんまり幸せな死に方じゃなかったな」とは思うかもしれないけど、それでも納得して死んでいく。生きていることが楽しかったから、自分を育ててくれた人に感謝して、最後に恩返しをしてくれるんだ。
 あたし、今まで知らなかった。でもカーヤはずっと野菜と話をしていて、子供の頃から野菜の気持ちを知ってたんだ。だからできるだけ野菜をおいしく食べてあげたくて、料理の練習をして、すごく上手になったんだ。
 カーヤってすごい。あたし、カーヤのことを尊敬する!
「カーヤ、どうして今まで教えてくれなかったの? カーヤがこんなにすごいって、もっと早く教えてくれればよかったのに」
 料理を作る手を動かすのを再開して、カーヤはあたしから視線をそらした。