続・祈りの巫女30
 あたしは、1つのことに夢中になると、周りのことが何も見えなくなる。昨日そのことに改めて気付いたから、今日は朝から物語には一切手をつけなかった。久しぶりにカーヤの朝食の支度を手伝って、ジャガイモの皮を剥こうとしたら、カーヤがあたしの手元を見て何かを言いたそうに目を見開いた。
「どうしたの、カーヤ?」
「うん、えっと……。やっぱりお手伝いはいいわユーナ。椅子に座って待ってて」
 なんだかカーヤはあたしの包丁使いに言いたいことがあるみたい。確かにあたし、このところ料理はぜんぶカーヤに任せきりだったけど、家にいる時はちゃんとお手伝いもしてたし、そんなに危ない持ち方はしてないと思うんだけど。
「あたしの包丁の使い方、おかしい?」
「ううん、そうじゃないの。ただ……ユーナにはたぶん判らないことで、どうすることもできないことだから。でもこれはあたしの料理だからやっぱり野菜はちゃんと使ってあげたいし……」
 カーヤが言ってることはあたしにはさっぱりわからなかった。たぶんそんな顔でカーヤを見てたんだと思う。1つ溜息を吐くみたいにして、カーヤは言った。
「あたしね、ユーナに話してないことがあるの。でもいい機会だから言っておくわね。……あたし、野菜の気持ちが判るのよ」
 カーヤの言葉は、信じるとか信じないとか以前に、意味がよく判らなかったの。野菜の気持ちが判る、って……。野菜に気持ちなんかあるの? 切られたくないとか、食べられたくないとか、野菜が思ってたりするの?
「……ジャガイモがしゃべるの?」
「信じられなくても無理はないわ。でもね、生きてるものにはみんな心があるのよ。あたしには小さな頃から野菜の声が聞こえてたの。だから他の人は不思議に思っても、あたしには野菜がしゃべるのはあたりまえなのよ」
 そう言ったカーヤは、あたしにはまるで初めて見る人のように見えた。