続・祈りの巫女29
 カーヤは少し悲しそうな表情をしているように、あたしには見えた。だんだん思い出してきた。あたしは朝食のあと物語を読み始めて、それからずっと物語の世界にいたんだ。今が夕方だとすると、お昼ご飯も食べずにいたことになる。あたし、あまりに物語に夢中になりすぎて、カーヤが昼食に呼んだことにすら気がつかなかったんだ。
「ごめんなさいカーヤ! あたし、カーヤが作ってくれたお昼ご飯食べなかった!」
 ようやくあたしがまともに返事をしたからだろう、カーヤも少し安心したみたいだった。
「何回か呼んだんだけどね、あんまり夢中だったから、あたしもかわいそうになっちゃって。でもさすがに夕ご飯くらいはちゃんと食べなきゃ身体に悪いわ。さ、食卓にきて」
 カーヤに背中を押されて部屋を出ると、食卓には既に夕食が並べられていた。あたしはなんだかお腹がしくしくしてしまって、すぐに食べられる気がしなかった。でも、せっかくカーヤが用意してくれたんだもん。食卓について、いただきますを言って、スープを何口か飲んでいたら、だんだんあたしのお腹が空き過ぎてたんだってことに気がついた。
「このハムのスープおいしい」
「よかった。たくさんあるからおかわりしてね」
「うん、ありがと。……そうだ、リョウは?」
 あたしは気付いてカーヤに訊いた。いつもリョウは、夕食の前には来てくれてたんだ。
「今日も来てくれたわよ。でも、ユーナは呼んでもこないし、あたしが今日はユーナはずっと本を読んでたって言ったら、それなら邪魔しなくてもいいって。すぐに帰ったわ」
「そんな! ……リョウ、怒ってなかった?」
「そうね、怒ってるようには見えなかったわ。逆に、ユーナらしい、って笑ってたわよ。一生懸命になると周りのことが何も見えなくなるのがユーナなんだ、って」
 あたし、カーヤの言葉に少しだけ気が楽になっていたけど、でもそれならなおさらリョウに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。