続・祈りの巫女28
『あたしどうしてあんな奴のことが好きなんだろ!』
 部屋に戻ってから、セーラはジムを罵倒して涙を流した。セーラはジムのことが大好きだったから、毎日のようにお昼にお弁当を作って森の中に届けたりしていたの。ジムはきこりで、毎日同じ場所にいるわけじゃないから、時にはジムが見つからなくてお弁当が無駄になってしまうこともあった。でも、運良く探し当てた時には、ジムもちゃんとお礼を言って、自分が持ってきた分とセーラが持ってきた分、両方ともぺろりと平らげていたの。
 祈りの儀式のときには、村の平和を祈ったあと、こっそりジムの無事を祈ってた。気が強くて、だからよくジムと喧嘩ばかりしていたけど、あたしは一途なセーラを1番知ってたから、セーラの失恋はあたしにはすごくショックだった。
 たくさん泣いて、たくさん怒って、あたし、セーラがこの恋を諦めるんだと思ってた。でも、セーラは諦めなかったんだ。
 あんなに泣いたのに、翌日にはけろっとして、朝から一生懸命お弁当を作ってジムを森の中に探しに行った。ジムの方はまたセーラをうるさく思ってた頃の態度に戻っていたけど、セーラの態度はぜんぜん変わらなくて、ジムと本気で喧嘩をして、反面神殿ではジムの無事を真剣に祈っていた。
 すごく大胆で、その上繊細なセーラの恋。ジムと本音でぶつかり合う激しい恋。1回失恋したくらいじゃ消えない、とっても強い恋。あたしはそんなセーラの恋に、今までよりもずっと夢中になって物語の中に入り込んでいた。だから、自分の名前がユーナで、現代の祈りの巫女だってことも忘れてたみたい。それに気がついたのは、誰かがあたしの身体をゆすって、本を閉じてしまったからだった。
「ユーナ、ユーナ、お願い、返事して」
 あたしがまだ物語の世界から戻れなくて、呆然と顔を上げると、カーヤがすごく心配そうな顔であたしを見下ろしていた。
「……カーヤ?」
 そう返事ができるまでにもずいぶん時間がかかったと思う。あたし、カーヤの名前を一瞬思い出せなかったんだ。
「ユーナ、そんなに夢中になってはダメよ。食事をとらなければ身体に悪いし、目も悪くするわ」
 言われて見回すと、あたりは既に夕闇に包まれていた。