続・祈りの巫女27
 翌日も、あたしは朝からずっとセーラの物語を読み進めていった。そろそろ改めてマイラにお祝いを言いたかったから、午前中少し頑張って物語を進めて、午後からマイラの家に行こうと思っていたの。ほんとは、マイラにリョウのことを相談してみたかった。マイラがベイクと結婚した時の話とか、あたしが知らないリョウのこととか、訊いてみたいことがあたしにはたくさんあったから。
 物語のセーラは15歳になっていた。セーラが恋するジムは19歳で、きこりの仕事をしているの。セーラはその前からずっとジムにまとわりついてて、ジムはいつもうるさそうにあしらってたんだけど、この頃になってようやくセーラの言葉に耳を傾けるようになってきた。気が強いセーラは、このとき初めて、ジムに告白したんだ。
『あたし、ジムと結婚するの。ずっと前から決めてるの』
 あたしはまわりのことなんか一切忘れて物語に熱中した。ジムの返事を待っているセーラと同じ気持ちになって、ドキドキしながらページをめくった。これは物語だから、セーラの心の中が細かく描写されてて、あたしはその部分を読み飛ばして早く返事のところを読みたくなったけど、なんとか我慢して順番どおり読み進めた。
 やがて、しばらくの沈黙のあとのジムのセリフ。
『……なんでオレがセーラと結婚するんだよ。そんなこと、勝手に決めるなよ』
 あたし、しばらく呆然としちゃったよ。そのあとなんだかすごく腹が立ってきた。物語の先を読んでいくと、セーラもあたしとほとんど同じ気持ちで呆然として、そのあと怒りに変わったみたい。あたしが言いたかったセリフとよく似たセリフをジムに投げつけたの。
『そんな言い方ってないでしょ! それが自分を好きになってくれた人への言葉なの? 嬉しいとか、ありがたいとか、そういう気持ちはぜんぜんない訳?』
『どうしてセーラに好かれてオレがありがたがらなきゃならないんだ。おまえなんかと結婚したら、毎日が夫婦喧嘩で終わるだろ。オレはもっとおとなしくて優しい女の子がいい。おまえにももっと優しい奴が合ってるよ。ほら、アサとか』
 アサはセーラに恋している神官で、ジムとも友達だった。このときはまだアサはセーラに告白していなかったけど、セーラもアサの気持ちにはなんとなく気付いていたんだ。