続・祈りの巫女26
 リョウは狩人だから、巫女のあたしがすごく嬉しいと感じたことを、同じくらいに嬉しいと感じることはできない。あたしだって狩人のリョウの気持ちを本当に理解することはできない。でも、リョウがカザムを仕留めたことをすごく喜んでいたら、あたしだって嬉しいんだ。リョウが喜んでいるってだけで、あたしは喜ぶことができるんだ。
 あたしがセーラの日記を読めることをリョウも喜んでくれた。リョウには判らないことだったけど、あたしが喜んでいたから、リョウは「よかったな、ユーナ」って言ってくれたんだ。
「……カーヤ、リョウはタキのことを気にしてたのかな」
 しばらくの沈黙のあとそう言ったら、カーヤは少しほっとしたように笑顔を見せた。
「なんとなくね、そうじゃないかな、って思っただけなの。あたしの勘違いかもしれないけど」
「ううん、勘違いじゃないかもしれないわ」
 たぶんカーヤが言ったことも本当なんだ。リョウは、あたしがいきなりタキの話を始めたから、気分を悪くしてしまったんだ。だからすぐにはあたしと一緒に喜ぶことができなかったんだ。
 リョウはいつもすごく優しくて、自分が怒っていたとしてもぜったいに表情に出さない。今日だってずっと微笑んでいたんだもん。もしもカーヤが言ってくれなかったら、あたしはリョウが怒ってたかもしれないなんて、ぜったいに思わなかっただろう。もしかしたら今までもリョウが怒った時はあったのかもしれない。あたしはずっと気付かないで、リョウを傷つけてたかもしれないんだ。
 リョウはたぶん、ものすごく強い意思を持って、人に優しくしようとしてるんだ。あたしは今までずっと、そんなリョウの優しさに甘え続けてきた。本当はリョウがどう思ってるのかなんて、気付こうとすらしなかったんだ。
 この1年で、あたし、リョウに嫌われなかった? あたしが祈りの巫女になったあの時、一緒に暮らしたいって言ってくれた、あの時と同じ気持ちで今でもいてくれてる?
 それとも、知らない間にあたしは嫌われていて、リョウの中にはもう優しさだけしかないの……?
 今までの自分があまりに何も知らな過ぎたことに気付いたその夜、あたしはベッドの中でいつまでも眠れずにいた。