続・祈りの巫女23
 読んでみたかった。セーラが日々どんなことを考えて、祈りの巫女の使命を全うして、どんな風に思いながら死んでいったのか、それを知ることができるのなら。
「それ、読んでみたい! 読ませてもらえるの?」
「祈りの巫女がそう思うなら読めると思うよ。ただ、あの本は持ち出し禁止だから、自分の宿舎でゆっくりと、っていう訳にはいかないかな。物語よりもずいぶん長いしね。どっちにしても物語をぜんぶ頭に入れてからでないと理解できないから、今読んでる物語の方を読み終わって、そのあと神官の誰かに隣で訳してもらいながらだね。オレでよければ協力するよ」
「ありがとうタキ! あたしが物語を読み終わるまで、忘れないでね。約束!」
「ああ、約束」
 セーラに会える。だれかが書いた物語じゃなくて、セーラが毎日綴っていた、1日1日を積み重ねたセーラの小さな毎日に。
 物語の中では切り捨てられてしまっている、小さな出来事や小さな悩み、今あたしが感じてるような焦りや不安を、セーラがどう感じてどう克服していたのか。
 物語の中のセーラは気が強い女の子だったから、あたしみたいにたくさんの不安はなかったのかもしれないけど。
 そのあと、タキはまた無言で草むしりを再開したから、あたしも両手を動かして、やがて山の陰だったこの場所にも日が差し始めていた。途中1回だけ飲み水を持って見習いの巫女の1人が回ってきて、あたしもタキも1杯ずつ水をもらって、お昼になる頃にはようやく建物の陰になるあたりまで作業を進めることができた。
 それで初めて気がついた。タキが、最初からできるだけ日陰になるように場所を選んで、草むしりを始めてくれたこと。日中陽が当たる場所は朝、山の陰になるときに済ませてしまって、いちばん日差しが強い時間には建物の陰になるように。たぶんタキは毎年の草むしりにも慣れているんだと思うけど、たとえそうだとしてもあたしには新鮮な驚きだったの。
 タキの気遣いで、今年あたしは最後まで草むしりを続けることができた。この時からあたしは、タキに無条件の信頼を置くようになったんだ。