続・祈りの巫女21
 タキの話を聞いていたら、タキがどうして神官になったのかは判ったけど、あたしにはタキがそれを不思議に思って、どうしても知りたいと思う気持ちが判らなかった。だって、畑仕事をするならいつ種をまいて草取りして肥料をあげて、いつ収穫すればいいのかが判ってればいいし、狩人ならその季節にその動物がどこにどのくらいいるのかが判ってればいいんだもん。空がどうして青いのか判っても、誰の役にも立たないんだ。
「それはタキだけなの? 神官はみんなそう思うものなの?」
「そうだね、何を考えてるのかはみんな違うけど、少なくとも知りたいと思う気持ちは同じじゃないのかな。この間セリと話したら、セリは山の上の方がふもとより寒いのはどうしてかな、って言ってたし。祈りの巫女はどうしてだと思う? 山の上の方が太陽に近いはずなのにね」
 あたしはタキの問いには答えられなかったし、そもそも考えることすらもできなかった。タキは、たぶん慣れてたんだと思う。そんなあたしの反応を意外に思った様子はなかった。
「祈りの巫女は? どうして巫女になったの? ……もちろん神託の巫女の予言があったからだろうけど」
 2人ともすっかり草むしりの手が止まっていたのだけど、お互いそんなことにはぜんぜん気がついていなかった。
「んとね、みんなを幸せにできるから。祈りの巫女になって、みんなのために祈ったら、みんなを幸せにできると思ったの」
 あたしがそう答えたとき、タキはちょっと首を傾げてあたしを覗き込んで、ふっと、微笑んだ。
「みんなを幸せにする祈りの巫女、か。……だったら、祈りの巫女の幸せは、いったい誰が祈ってくれるんだろう」
 思いがけないタキの言葉に、あたしは返事をすることができなかった。
「セーラの物語を読んでいて思ったんだ。セーラは災いを避けるために必死で祈りを捧げて、その祈りは神様に届いて、村は平和を取り戻した。今オレたちがここにいるのは、セーラたち祈りの巫女のおかげだと思ってる。だけど、セーラを幸せにすることは誰にもできなかったんだ。祈りの巫女は災いを避けるために生まれてくる。それは確かにそうなのかもしれないけど……。オレは、祈りの巫女自身の幸せも、大切なことだと思うんだ」