続・祈りの巫女22
 あたしはタキの目を見たまま、しばらくのあいだ何も答えることができなかった。
 もちろん思ったことはいっぱいある。あたしは祈りの巫女で、祈りの巫女の仕事は誰かのために祈ること。それは例えば誰かの健康だったり、仕事の成功だったり、もっと漠然とした誰かの幸せだったりすることもある。あたしはマイラの幸せを祈って、あたしの祈りを受けた神様はマイラが今一番幸せになれる方法を選んで、マイラに子供を授けてくれた。そのために祈ることがあたしの仕事で、マイラの子供が無事に生まれたとき、あたしは幸せを感じたんだ。
 祈りの巫女になって誰かのために祈ることは、あたしを幸せにしてくれる。あたしは自分で自分の幸せを祈らなくても、誰かの願いがかなうことで幸せになれるんだ。タキにそう言いたかったのになぜか言えなかった。あたしが幸せだって、自信を持ってタキに言うことができなかったの。
 あたしの幸せを祈ることは誰にもできない。タキのその言葉は、あたしには「祈りの巫女は幸せになれない」って聞こえた。セーラがわずか17歳で死んでしまったように、あたしもこれから先永久に幸せになれないような気がしたの。
 あたしは不安そうな顔をしていたんだろう。見つめたまま、タキはちょっとばつが悪そうに微笑んだ。
「……参ったな、祈りの巫女がそんなに深刻に取るとは思わなかった。これは罪滅ぼしが必要だな」
 タキはちょっと目を伏せて、そのあともう一度顔を上げたときには、今までよりもずっと明るい表情になっていた。
「ねえ、祈りの巫女、セーラが書いた日記の原文を読んでみたいと思うかい?」
 タキが突然話を変えたからあたしは驚いて、でもその内容の方にもっと驚かされていた。
「日記の原文があるの? 物語じゃなくて?」
「もちろん原文の書き直しも定期的に行ってるよ。物語の書き直しの時には参考資料として必要だからね。ただし、セーラの時代と今とでは言葉も変化してるから、理解できない言葉も多いんだけどね」