続・祈りの巫女20
 タキは穏やかな笑顔で話してくれて、あたしにはタキが本当に喜んでくれていることが判った。あたしが読んでいるセーラの物語は、1300年も前に生きていたセーラの日記を、のちの神官が物語に起こしたもの。それからすごく長い時間を、タキのような神官たちがずっと書き直してくれていたんだ。だからあたしはセーラの物語を読むことができる。まるで昨日生きていた人のように、セーラを身近に感じることができる。
 もしも途中で誰かが書くことをやめてしまっていたら、あたしはセーラに出会うことはできなかった。あたしはすごくたくさんの神官たちに助けられてるんだ。その人たちの名前をあたしは知らない。そして、あたしの次の代の祈りの巫女は、タキの名前を知ることもないんだ。
 それでも、タキは物語を書き写して、あたしが今それを読んでることを喜んでくれる。タキの名前はどこにも残らないのに。タキがここに生きてたことを、この先生まれてくる人は誰も知らないのに。
「ねえ、タキはどうして神官になったの?」
 あたしがそう聞くと、タキはちょっと驚いたように、視線を泳がせた。
「……そうだな。オレはそれほど身体を動かすのが得意じゃなかったし、子供の頃から独りで考え事をするのが好きだったんだ。例えばね、晴れた日の空は青くて曇りの日の空が白いのはどうしてかとか、太陽が毎日東からのぼって西に沈むのがどうしてなのかとか。祈りの巫女は不思議に思わない? 毎年同じ頃に草は芽を出して、夏の初めにはこうして草むしりもしなきゃならない。だけど冬になれば自然に枯れていく。そういうのが」
 タキの答えはあたしが今まで考えもしなかったことで、だから今度はあたしの方がびっくりしてしまったの。
「そんなこと、あたりまえだと思ってたわ。春に花が咲くのも、秋に枯葉が落ちるのも。ああ、もう秋なんだな、って」
 何がおかしかったのか、タキはあたしを見て、ちょっと吹き出すように笑った。
「そういうことをね、昔の人がどう思ってたのか、オレは知りたかったんだ。だから神官になって文字を覚えて、昔の本を読みたかった。中にはオレが思ったようなことを思ってた人もいて、答えを教えてくれるかもしれなかったから」