続・祈りの巫女17
 カーヤの心づくしの夕食を食べて、あたしは勉強部屋に戻って、自分の日記をつけ始めた。この日記はのちの神官が物語に起こしてくれる。だからいいかげんに書くこともできなかったし、嘘もつけなかった。今日の出来事を正確に正直に、できるだけ丁寧な文字で書き綴っていった。
 そして、眠る前のその時間、あたしはまた神殿にきていた。マイラの子供が無事に生まれた感謝の気持ちを神様に伝えるために。
 神殿のあちこちに順番にろうそくを立てて、聖火を移して、順番にともしていく。床に水滴をたらしながら結界を張って、螺旋を描いて歩く。何度か歩いているうちに、徐々に神様と祈りの巫女との心の距離が近づいていく。あたしは、神様の前に、心のすべてを開放する。
  ―― あたしはまだこんなに未熟です。でも、マイラの幸せを願う気持ちは本物。神様、マイラの幸せのために子供を授けてくださって、本当にありがとうございました。この先は、マイラが自分の力で幸せになります。どうか、マイラが幸せになるための力を、彼女に授けてあげてください。
 祈りを捧げているあたしには、神様の気配がすぐそばに感じられる。代々の祈りの巫女の中には神様の声を聞いた人もいたけれど、あたしにはまだ神様の声は聞こえなかった。神様の気配は、あたしが優しい気持ちでいれば優しく、厳しい気持ちなら厳しく感じられた。今日の神様は、あたしの不安を映したように、ひどく不明瞭な気配を発していた。
 神様に祈ることは、自分の心を知ること。祈りを終えてろうそくを集めながら、あたしは自分の心を見つめた。あたしがこれから本当にしたいと思うこと。リョウが、カチに髪飾りを作ってもらうのが目標だと言ったように、マイラの祈りを終えた今、あたしもまた祈りの巫女の目標を定めなければいけないんだ。
 マイラが幸せになって、神託の巫女の死の予兆を知った今が、あたしの折り返し点なのかもしれない。
「ねえ、カーヤ。あたしこれから何をすればいいと思う?」
「祈りの巫女、人間は焦ると普段の半分の力しか出せなくなるのよ」
 カーヤの言うことはもっともで、でもあたしは心の中のもやもやをどうしたらいいのか判らずにいた。