続・祈りの巫女15
 このとき、あたしは初めて口を開いていた。
「何が起こるのかは判らないの? 飢饉とか、争いとか」
 ある程度覚悟ができてたのかな。あたしは自分でも不思議なくらい、取り乱したりすることはなかった。
「判らないのよ。運命の巫女が未来を見ても、それがいつ起こるのか、その時何が起こるのか、何も判らないの。すでに決まってしまった未来なら運命の巫女は見ることができるわ。運命の巫女に未来が見えないのは、未来がまだ決まっていないから。その未来は、おそらく祈りの巫女が握っているのだと思うの」
 あたしが、未来を握ってる。
 この先で何が起こるのか、それとも何も起こらないのか、それはすべてあたしにかかってる。あたしの祈りがみんなの運命を握ってる。
 あたしは祈りの巫女。特別な時代に生まれてきて、人々の祈りを神様に届ける役割を負う。あたしがみんなを幸せにしなきゃいけないんだ。
「もっともっと、たくさん勉強しなくちゃいけないのね。祈りが神様にちゃんと届くように」
 あたしが取り乱さなかったことを、守護の巫女は少し意外に思ったみたいだった。明らかにほっとしたような笑顔で言った。
「今までずっと、祈りの巫女は災いを退けてきたわ。神様はあなたに不可能だと思うような試練を与えたりしない。自分の力を信じて、今のあなたにできる限りのことをすればいいと思うの。あなたが生まれてきたことがすでに幸運なのよ」
「救いもあるわ。今、命の巫女は生まれていない。だからそれほど大きな災いではないのよ。祈りの巫女ユーナが背負うものは、2代目のセーラのときよりずっと小さな災いのはずだわ」
 神託の巫女が引き継いで、あたしの気持ちをできるだけ楽にしてくれようとする。その気持ちが嬉しかった。だけど ――
  ―― 誰も、祈りの巫女にはなれない。あたしの代わりにその宿命を背負うことなんてできない。
「……祈りの巫女ユーナ。そなたの命があることがすでに幸運なのだ。騎士がそなたを守るだろう」
 その時初めて、守りの長老が重い口を開いた。