続・祈りの巫女12
 リョウは狩人だから、文字も読めなかったし、巫女の歴史を勉強したこともない。だから、あたしが不安に思ってることが、リョウには判らないかもしれないんだ。それは少し前からあたしが感じてきたことだった。狩人のリョウと、巫女のあたしとの距離は、少しずつだけど離れ始めてるのかもしれない、って。
 リョウが今でもあたしと一緒に暮らしたいと思ってるかどうかなんて、リョウ自身にしか判らないんだ。
 だんだん、リョウに訊けないことが増えていく。小さな子供の頃だったら素直に訊けていたのかもしれないのに。
 リョウは、いつ、誰と結婚したいの……?
「ねえ、リョウは? 今日リョウは何をしてたの?」
 リョウはとたんに目を輝かせて、あたしに話し始めた。
「ルギドの穴を捜してたんだ。放っておくと村の畑に来て土の中を荒らしまわるからね。いくつか見つけて、入口に罠を仕掛けてきた。今の時期だとこの仕事が一番重要かな。午後からは南の森で雄のカザムを一頭仕留めたよ」
「ほんとに? すごい」
「カチに細工用の角を頼まれててね。もう少し腕を上げて、カチにワガママ言えるくらいになったら、北カザムの角でユーナの髪飾りを作ってもらうな」
「あたしの……?」
「まだずっと先のことだと思うけどね。とりあえずそれが今のオレの目標」
 リョウはほんとに嬉しそうにそう言ったから、あたしまた期待しちゃうよ。誰にでも優しいリョウ。その優しさが、あたし1人のものなんじゃないか、って。
 リョウの顔がまともに見られない。口を開いたら憎まれ口を言いそうで、あたしは下を向いたまま何も言うことができなかった。
「さあて、時間も遅いし、カーヤが戻ってくる前に帰ろうか。ユーナ、またな」
 もう一度あたしの頭に手を置いて、顔を上げたあたしににっこり微笑んで、リョウはドアを出て行った。