続・祈りの巫女10
 昔の物語を読んでいると、ときどき転生って言葉が出てくることがある。以前生きていた人の魂が新しい身体に宿ることを言っていて、神託の巫女は誕生の予言の時に知ることができる。でもそれは本人にも両親にもぜったいに知らされないから、死んだあと物語になって初めて判ることなんだ。転生は巫女たちに限らず誰にでもあることだから、神託の巫女に報告を受けた神官が、戸籍に記載する時に一緒に付け加えられることになる。
 リョウのように神殿にかかわらずに生きている人たちは、そもそも転生なんて気にもしないし、必要もないから、そんな言葉があることすら知らないの。あたしはリョウと毎日のように話してるから、前にそんな話をしたこともあった。マイラの新しい子供はシュウの転生なのかもしれない。神託の巫女は、マイラの赤ん坊の予言をして、そんな事実を知ったのかもしれないんだ。
「ありがとう、カーヤ。でも夕飯は自分の家で食べるよ。癖になると困るからね」
「癖になったらなったでいいじゃない。毎日ここで食べればいいわ」
「さすがにそれはまずいよ。若い女性が2人だけの家に入り浸ったりしたら、変な噂が立ちかねないから。オレはよくても祈りの巫女に迷惑がかかる」
「そう? 残念。おいしいのに」
 その時カーヤはエプロンを外して、椅子の背もたれにかけながらにっこり笑った。
「ユーナ、ちょっと神殿の予定を見てくるわ。リョウ、ゆっくりしていってね」
「いいわよカーヤ。あとで自分で見に行くから」
「ついでにほかの用事も済ませてくる。……あたしがいては話しづらいこともあるでしょう?」
 カーヤはそう言ってさっさとドアを出て行ってしまったから、あたしはなんだか少しカーヤに申し訳ない気持ちになっていた。
「オレはいつもカーヤに迷惑をかけてるな。もう少し早い時間に来られればいいんだけど」
「リョウは悪くないわ。だってリョウにも狩人の仕事があるんだもの」
 リョウに視線を移して、あたしはまたセーラの恋物語を思い出していた。