続・祈りの巫女9
 神殿は割にいつも誰かが使っていて、新米の祈りの巫女は強引に割り込むことなんかできなかったから、あたしが祈りを捧げられるのはたいてい夜になってからだった。本当はすぐにでも感謝の祈りを捧げたかった。でも、その日も神殿の予定はいっぱいで、あたしは夜までの時間を部屋で勉強することに費やした。
 あたりが暗くなってきた頃、1日の仕事を終えたリョウが、あたしの宿舎にやってきた。カーヤにその知らせを聞いて、あたしはセーラの物語を切りのいいところまで読んだあと、部屋を出た。
 リョウは食卓に座っていて、カーヤが入れたお茶を飲んでくつろいでいるところだった。
「ユーナ、お疲れさん」
「お帰りなさい、リョウ」
「今カーヤに聞いたよ。マイラの子供が無事に生まれたんだってな」
 リョウは笑顔でそう言って、隣に腰掛けたあたしの頭に手を乗せた。あたしはリョウが大好きだけど、そうして頭をなでられるのがなんだか子ども扱いされてる気がして、ほんの少しだけ嫌だった。
「うん、男の子だったの。……シュウなのかな」
 あたし、もしかしたらリョウに甘えてたのかもしれない。リョウは頭をなでながら、慈しむように微笑んだ。
「まだ判らないけど、たぶん違うと思うよ。っていうか、オレは違ってて欲しい。ユーナは? シュウの方がいい?」
「……判らないわ。でも、たぶん違う方がいい。シュウは1人だけでいいもん」
 マイラはあの子にどんな名前を付けるんだろう。シュウの名前を付けるのかな。それとも、ぜんぜん違った名前にするのかもしれない。
 神託の巫女の言葉が、あたしを不安にした。もしかしたらあの子はシュウなのかもしれない、って。何も教えてもらえなかったから、あたしはいろいろ想像して、リョウを目の前にしてふいにこぼれ落ちてしまったの。
「リョウ、たまにはあたしが作ったお夕飯を食べていって。1人で食べてもおいしくないでしょう?」
 少し重苦しくなった空気を感じたのか、気分を変えるようにカーヤが言った。