祈りの巫女46
「シュウは確かに優しいけど、優しいだけじゃだめだ。オレはシュウよりも年上だし、オレの方がぜったい頼りになる。シュウよりもオレの方がぜったい強いんだ、って思ってた。いざというときにユーナを守れるのはオレの方だ、って。……たぶんオレはそう思っていたかったんだよな。でもあの時、シュウは死んじまった。ユーナを守って、ユーナの命を助けて」
 リョウは、遠くを見つめたまま、あたしを振り返ることはしなかった。
「オレはあの時シュウに負けたんだ。優しさも、強さも、ユーナへの思いの強さも」
 あたしは、ただ呆然と、リョウが話す言葉を聞いていることしかできなかった。
「シュウが死んでオレがショックだったのは、シュウがオレに残した敗北感と、もう2度とシュウには勝てないんだ、って絶望感だった。これからオレがどんなに強くなっても、シュウはもうオレには手が届かない。ユーナの中に、シュウを超える奴なんか現われない。……ところがさ、ユーナはユーナでショックのあまりシュウを忘れちまったんだ。これはチャンスだと思ったね。同時に、優しかったシュウを失ったユーナのシュウに、オレはなれるかもしれないと思ったんだ。オレがシュウのように優しくすれば、ユーナはシュウを大好きだったみたいに、オレのことを大好きになってくれるかもしれない、って。それでオレはユーナに優しくし始めて、でもそうしてるうちに、それが正しいことなんだ、って、少しずつ判ってきた。オレが優しくなれば、ユーナだって優しくなる。ほかのみんなだって優しくなる。オレのまわりの世界がまるで違うものになったみたいだったな」
 話し続けていくうちに、リョウは少しずつ自信を取り戻したように、力強い笑顔を浮かべた。そんなリョウはやっぱり、あたしが知っていたリョウとはまるで違って見えた。あたしが記憶を取り戻したことが、リョウ自身をも変えてしまったみたいに。それは今までの優しいだけのリョウじゃなかった。昔の意地悪なリョウや、今まであたしに見せなかったリョウ、新しく変わったリョウが混ぜこぜになって、あたしの目の前に存在しているみたいだった。
「……ただね、オレは、シュウに対する敗北感だけは、いつも心の中に持ってたんだ。オレは優しくなって、ユーナに大好きだって言ってもらえるようにもなったし、狩人になって強くもなった。だけどどうしても、シュウに勝った気がしなかった。シュウがオレを認めてると思えなかったんだ」