祈りの巫女43
 リョウが選んだのはかなり細い獣道で、巫女の衣装を着けたあたしにはずいぶん歩きづらかった。リョウはずっとあたしの手を取っていてくれて、あたしが飛び越せないせせらぎを越えるときは、ひょいと抱き上げて運んでくれた。今日のリョウはいつもよりずっと優しくも見えたし、逆にすごく乱暴な感じもした。こんなリョウを見るのは初めてかもしれない。リョウはあたしよりもずっと大人だったのに、まるで子供に戻ってしまったみたいだった。
 やがて、リョウが足を止めたのは、森の木がそこだけ少し切り開かれた場所だった。いくつかの切り株と、隅の方に材木が積み重なった広場。材木はもう枝が切り落とされて、皮も剥がしてあった。リョウはその材木に腰掛けて、そのあと自分の上着を隣に乗せて、あたしが座る場所を作ってくれた。
「ここ……誰かの家になるの?」
 その材木の切り方を見ればそうとしか思えなかったけど、こんな不便なところに家を建てる人がいるなんて、あたしは信じられない気がした。だってここ、ほんとに森の真ん中で、まわりには誰の家もなかったんだもん。
 あたしが材木に腰掛けると、リョウは微笑みながらあたしに言った。
「ここにはね、オレの家が建つんだ。……ユーナ、オレ、独立することにしたんだ」
 あたしは驚いてリョウの顔を見つめた。リョウは今まで、あたしの家の近くに両親と一緒に住んでたんだ。そんなリョウが独立する。リョウはここに1人で住むの? それとも……
「独立、って。……リョウ、結婚するの……?」
 リョウもあたしの言葉にちょっと驚いたみたいだった。
「さすがに結婚はまだしないよ。いずれすることになると思うけどね。そのときはここに一緒に住みたいけど、今はまだ1人だ。オレはここに家を建てて、これからずっとここに住むんだよ」
 リョウは本当に嬉しそうで、でもあたしはまたリョウが遠くに行ってしまった気がして、少しさびしくなった。あたしが巫女になって、少し大人になっても、リョウはもっと遠くに行ってしまう。あたしはリョウに追いつくことができないんだ。