祈りの巫女42
 神殿前の広場では、祈りの巫女誕生の祝い料理が振舞われて、村人総出の盛大なパーティが始まっていた。あたしはあっという間にみんなに囲まれてしまって、料理のお皿や飲み物をもらって、代わる代わるお祝いの言葉を言われた。あたしも笑顔でありがとうを言いつづけて、いったいどのくらいの時間が経っただろう。相変わらずリョウの姿はちらりとも見えなくて、あたしはなんだかそわそわしてしまって、食べ物もあんまり喉を通らなかった。
 たくさんの人ごみの中に目をこらしてリョウを捜す。その時だった。神官たちの宿舎のある方にリョウが立っているのが見えたのは。
 リョウは微笑みながらあたしを見ているだけで、近づいてきてくれようとはしなかった。あたしはいろんな人たちに囲まれてたからすぐには動けなくて、じっとリョウを見つめていたら、リョウの唇がゆっくり動いたんだ。
  ―― オ・イ・デ
 リョウはひとつひとつ区切るみたいに言葉を形作って、あたしにはリョウがそう言っているように見えた。あたしは料理のお皿と飲み物をテーブルに置いて、人ごみを掻き分けながらリョウがいた方へ行こうとした。なかなか進めなかったけど、ようやっと人の輪から抜け出すと、リョウはもうそこにはいなくなっていた。
 キョロキョロしながらリョウを探す。すると神官の宿舎の陰から腕がニューッと伸びてきて、あたしを手招きする。なんだかからかわれてるみたいな気がしてちょっとだけ腹が立った。でもその手がある方に歩いていくと、そこにはリョウが待っていて、あたしの手を引いて言ったんだ。
「ユーナに見せたいものがあるんだ。一緒に来て」
 そう言ったリョウがなんだかものすごく嬉しそうで、そんなリョウの顔を見ていたら、さっき少し怒りかけたのも忘れてしまった。
「なあに? あたしに見せたいもの?」
「くればわかるよ」
 リョウはあたしの手を引いたまま、森に囲まれた山道を少しずつ降り始めたんだ。