祈りの巫女40
 コツ、コツ、と、窓を2回叩く合図で、まずは聖櫃の巫女が立ち上がった。あたしは慌ててその後ろに立つ。聖櫃の巫女は1回だけあたしを振り返って微笑んだ。まるであたしを勇気づけてくれるみたいに。
 やがて宿舎の扉が外側から開かれて、あたしはまぶしい光に包まれる。と同時に人がたくさん集まったときの独特のざわめきが飛び込んでくる。そうなんだ。あたしの巫女の儀式を見るために、いま村中の人たちが神殿の周りに集まってきてるんだ。
 ドキドキはぜんぜんおさまらなくて、でも聖櫃の巫女に遅れないように歩かなきゃいけなかったから、あたしは少しだけ顔を伏せるようにして、村の人たちが両側を埋め尽くして通路になった道を歩き始めた。この中には父さまや母さまやオミ、それにリョウだっている。どこにいるのか確かめて、顔を見て安心したかったけど、光がまぶしくて探し出すことはできなかった。
  ―― ユーナ、きれいね
 ざわめきの中からかすかにそう聞こえた気がして、あたしは嬉しくなった。リョウもどこかで見ててくれてる? あたしのこと、きれいだって、リョウも思ってくれてるかな。
 神殿への石段を上がると、いつもと少しだけ違った神殿の建物が見えてきた。いつもは木の壁に閉ざされている神殿は、今はあたしの儀式をみんなに見せるために、壁がすべて取り払われて、太い柱だけになっている。その柱の間を歩いていくと、今まで道を作っていた村の人たちが、みんな階段を上がってきた。あたしは神殿の奥、祭壇の手前まで歩いていって、膝をつく。聖櫃の巫女が目の前から去ってしまって、あたしは祭壇の前に1人ぽつんと取り残されていた。
 守りの長老があたしの前に進み出る。祭壇に向かって、あたしが祈りの巫女になることを神様に伝える言葉を語り始める。大勢の人たちが見守る中、あたしの儀式は滞りなく進められていった。