祈りの巫女38
 父さまと母さまが駆け込んできたのは、あたしがマイラに服を借りて着替えをした直後だった。2人は最初にマイラの手を握ってお礼を言って、そのあと母さまがあたしを抱き締めた。話は全部リョウに聞いてたみたいだった。あたしが、シュウのことを思い出したってことも。
 父さまと母さまに連れられて家に戻ったあと、あたしはベッドに横になって、翌日高い熱を出した。熱はしばらく引かないままで、その間中、あたしはいろいろな夢を見た。小さな自分に戻って、シュウと遊んでいる夢。6歳までの、シュウとのたくさんの思い出を、あたしは夢の中でもう一度辿っていた。
 シュウのことが大好きだった。たくさん遊んで、たくさん話して、あたしがわがままを言っても、謝るのも許してくれるのもいつもシュウだった。マイラにおやつを作ってもらったのも思い出した。夢の中のマイラは、でもやっぱり少しだけ悲しそうな表情をしてた気がする。
 たくさん思い出して、やっと熱が引いて、元気になったのは儀式の前の日だった。その日、あたしが元気になったことを聞いて、何人かの人たちがお見舞いにきてくれた。セトと神殿の人たち、マティや近所の人たち、そして、ベイクとマイラも。あたしが忘れてしまっていたから、今まで誰もシュウの話ができなかった。そんな時間を取り戻すみたいに、誰も彼もがシュウの話で持ちきりで、まるで村中全部シュウの話をしていたみたいだった。
 優しかったシュウは、きっと村中みんなに愛されてた。そしてあたしも、村のみんなに愛されてるんだ。だって、あたしが思い出すまで、誰も一言もシュウの名前を言わなかったんだから。思い出さなければ判らなかったみんなの優しさに触れて、あたしは涙が出そうだった。
 その日、たくさんの人がお見舞いにきてくれたけど、けっきょくリョウは姿を見せなかった。その理由はあたしには判らなかったけど、リョウにもう一度ありがとうを言う日は、明日に持ち越されていた。
 そして、いよいよ明日が、あたしが祈りの巫女になる日だった。